なぜ暴力がなくならない? 元球児が描いた「野球と暴力」で伝えたい思い

『野球と暴力 殴らないで強豪校になるために』の著者・元永知宏さん【写真:佐藤直子】
『野球と暴力 殴らないで強豪校になるために』の著者・元永知宏さん【写真:佐藤直子】

愛媛の進学校から立教大野球部へ 白球を追った男が世に問う“常識”とは

 他人に暴力を振るってはいけない。これは疑いようのない常識だ。もし日常生活で誰かを殴ったら、それは警察が出動する傷害事件となる。世の中では、児童虐待防止法や配偶者暴力防止法など、家庭内での暴力を取り締まる法律が整いつつあるが、この流れに取り残された世界がある。それが野球界だ。特に、高校野球では令和の世になってもなお、「暴力による不祥事」のニュースがやまない。

 そんな現状に鋭くメスを突き刺したのが、『野球と暴力 殴らないで強豪校になるために』(イースト・プレス刊)の著者・元永知宏氏だ。現在52歳となる自身も、愛媛県立大洲高校で白球を追った高校球児だった。その後、立教大学でも硬式野球部に所属。厳しい上下関係の中で揉まれ、野球を続けてきた。現在はスポーツライターとして活躍する元永氏は、著書の中で何を伝えたかったのか。「Full-Count」の独占インタビューで思いを語ってくれた。

「高校野球における暴力は、基本的にはないものとして、暗黙の了解として扱われてきたこと。勝った負けたの功績の方が重視されていたので、語るのは野暮、といった風潮はありますよね」

 今年3月、日本学生野球協会は不祥事があったとして7つの高校に処分を下したが、このうち5件が暴力による不祥事だった。残念ながら、元永氏の母校・大洲高もその1つ。今でもなお、暴力がなくならない現実がそこにある。

「僕が小学校の頃は、学校で生徒が先生から普通に殴られていた。それがしつけだったり、愛のムチということで正当化されていた時代です。親子でもそうだった。それだけ野蛮だったんですよね。でも、時は流れ、体罰や暴力を禁止する条例や法律ができても、高校野球では毎年たくさん不祥事が起こるわけです。そもそも、最初からないものとして扱っているので、それをなくすためにはどうしたらいいかなんて考える人は少ない。根深い問題だなと思います」

 監督から部員に対する暴力、部員間の上下関係から生まれた暴力、暴言、行き過ぎた練習などは、強豪校に特有なものというわけではない。これまで不祥事で処分された学校を見ると、強豪か否かに関わらず広範囲に及ぶことが分かる。「高野連に加盟する全国約4000校の全てに当てはまる可能性がある。指導者が抱える問題、顕著な上下関係も含め、野球を取り巻く環境を考えていかないといけないですよね」と元永氏は話す。

高校野球から暴力がなくならない「野球の特殊性」

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