なぜ暴力がなくならない? 元球児が描いた「野球と暴力」で伝えたい思い

高校野球から暴力がなくならない「野球の特殊性」

 高校野球から、なぜ暴力がなくならないのか。その理由の1つは、いまだ残る勝利至上主義にありそうだ。勝利=善、敗北=悪という価値観の中では、各都道府県では甲子園出場の切符を手に入れることしか成功と見なされない。「夏に負けてから新チームになって、選抜の予選が8、9月に始まり、12月には練習試合が禁止されてしまう。4月には新入生が入ってくるけど、7月までどれだけ磨けるか。指導者は待ちきれずに手を出したり暴言を吐いてしまうケースがあるんだと思います」。元永氏は、勝利という“義務”に追い詰められる指導者もいると見る。

 もう1つ、大きな理由として考えられるのが「野球の特殊性」だという。

「先輩後輩の上下関係が他のスポーツより強いですし、野球はどうしても大所帯になってしまう。多いところでは、1学年50人以上というところもあって、監督が1人で集団をコントロールしなければいけない。そうなると『分かったか』『ハイ』という関係を作らないとチームが回らなかったところもあります。やっぱり1対100の関係が正常に機能することはないと思います。ただ、今は強豪校を中心に監督の他に部長やコーチがいて、チームとして指導に当たっているので、徐々に改善されているんじゃないでしょうか」

 高校野球で主に指導に当たっているのは、学校の先生だ。教員としての実務がある中で、指導者としての勉強をする時間がない実情にも問題はありそうだ。

「これはどの競技でも言えることですけど、指導する人間には、選手時代の実績と成功体験がある。自分には、子どもたちを教えるに相応しい見識と能力があると、ほとんどの人が思っているはずです。でも、大学を卒業して、いきなり教育者になっても引き出しは少ない。さらに、教員として仕事が忙しいし、野球の練習が多すぎる。それで野球の指導者として勉強する時間がなければ、足りない引き出しの応急措置として暴力的なことが出てしまうのかもしれない。あるいは、長く監督を務めていると、自分はどんどん年を取るけれど、相手にする選手の年齢は常に15~18歳と変わらない。開く一方のギャップにフラストレーションが溜まり、暴力に繋がるケースもあるのではないかというのが私の推測です」

「親子であっても暴力はダメ。ここからスタートしましょう、という話です」

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