なぜか打たれる「カモ」は相性か実力か… 巨人菅野、ホークス千賀らが“苦手”な打者は?
王貞治、長嶋茂雄にも不得意の投手たちが…
打者目線で見ると、昨年、セ・リーグの首位打者の広島、鈴木誠也は、現役最多171勝のヤクルト、石川雅規にめっぽう強い。この3年間では打率.632(19打12安4本)。石川自身も鈴木のことを「穴がない打者」と言っているが、相性は抜群だ。また巨人の澤村拓一を打率.667(6打4安0本)、昨季所属していたマシソンを打率.500(6打3安0本)、DeNAのエスコバーを打率.333(9打3本1安)と、各チームの救援投手をしっかり打ち込んでいる。
対照的に中日投手陣は苦手で、大野雄大は打率.150(20打3安1本)、吉見一起は打率.083(12打1安0本)、祖父江大輔は打率.091(11打1安1本)。これも相性なのか。
パ・リーグの強打者、吉田正尚は先発投手に強い。ソフトバンクでは前述の千賀に加え、バンデンハークには打率.400(25打10安1本)、東浜巨は打率.389(18打7安2本)、武田翔太は打率.435(23打10安2本)、西武の高橋光成を打率.571(14打8安3本)、ロッテの二木康太を打率.412(17打7安1本)、日本ハムの有原航平を.364(22打8安1本)と打っている。
しかし救援投手は日本ハム宮西尚生に打率.111(9打1安0本)、ロッテの松永昂大に打率.083(12打1安0本)、ソフトバンクの森唯斗に打率.167(6打1安0本)、モイネロに打率.100(10打1安0本)と苦戦している。対戦数が少なく、配球が読みづらい投手は攻略が難しいのかもしれない。
日本プロ野球史に残る大打者、長嶋茂雄と王貞治にも「カモと苦手」があった。長嶋茂雄が「顔を見るのもいや」と嫌ったのが、大洋のエース平松政次だ。
長嶋茂雄は、1967年から1974年まで9シーズン平松と対戦して打率.193(181打35安8本)。平松と言えば「カミソリシュート」が売りだったが、右打者の内角をえぐるこの球に、踏み込んでバットを出す長嶋は度々のけ反らされた。皮肉なことに平松は長嶋茂雄の大ファンで、入団1年目は長嶋にあやかって背番号「3」をつけていた。対照的に王は平松が得意で、打率.370(235打87安25本)とお客さんにしていた。
王貞治が苦手にしていたのは、同級生の中日、板東英二だった。打率.206(68打14安3本)だった。高校時代は速球派投手だった板東だが、プロ入り後は打者との駆け引きにたけた技巧派投手になった。救援投手として活躍したが、王貞治も巧みな駆け引きで打ち取った。板東英二は、長嶋茂雄も攻めあぐんだ。打率.269(104打28安6本)だった。
「得意と苦手」の関係はずっと同じではない。打者、あるいは投手が成長して苦手を克服することもある。また、何かのきっかけで「得意と苦手」の関係が逆転することもある。そういう「勝負の機微」を見極めるのもプロ野球観戦の妙味だといえよう。
(広尾晃 / Koh Hiroo)