「ダサい人間になるな」甲子園の道が閉ざされた盛岡大付ナインを救った先輩の言葉

盛岡大付・関口監督は08年以降のキャプテンにメッセージ動画をお願いした

 そんな時、09年度卒業の増澤洵コーチのもとに盛岡大付が13年センバツで甲子園初勝利を挙げた時の主将である三浦智聡さん(現西濃運輸)から連絡があった。「何かできることはないですか」。関口清治監督が監督に就任した2008年以降の主将たちに、現在の部員に向けたメッセージ動画をお願いした。頑張ろうとする気持ちと虚無感が交錯する盛岡大付ナインは6月、編集して約30分にまとめられたメッセージ動画に見入った。

 高校時代にコロナ禍は経験していないし、年代も違う。それでも、同じ学校に通い、同じユニホームを着て、同じ場所から甲子園を目指した経験を持つ者同士。先輩たちの一言一句を心に刻んだ。中でも、小林主将は「キャプテンの子」とスクリーンの中から呼びかけた藤田貴暉さんのメッセージにインパクトが残っているという。

「ここがキャプテンの見せ場だと思うので、仕事をしっかりとやり遂げてください。責任と自信を持って、思っていることを伝えて、しっかりと引っ張っていってください」

 藤田さんは、ライバル・花巻東の同学年に大谷翔平投手(現エンゼルス)がいた2012年の主将だった。岩手大会準決勝の一関学院戦で当時の高校生最速となる160キロをマークした大谷と決勝で対戦。大きな注目を浴びる中、5-3で勝ち、甲子園に出場した。高校時代、同世代の“怪物”に立ち向かう日々を送った藤田さん。全体にはこんなメッセージを送った。

「みんなにはダサい人間になってほしくない。かっこいい人間になるように気を引き締めてやってほしいです。過去に悔しさを残して生きている、かっこ悪い人を何人も見ています。僕はみんなと同じ盛岡大付で高校野球を全力でやりきったからこそ、胸を張って生きていけています。みんなも甲子園がないからといって、ダラけて最後までやりきらなかったら、ダサい人間になってしまう。今しか本気になれる時はありません。関口監督が言っている『かっこいい漢になる』をとことん追求して卒業してください」

 藤田さんをはじめ、歴代の主将によるメッセージによって盛岡大付の3年生はもう1度、立ち上がった。目標の甲子園はなくなっても、盛岡大付で野球をやっている目的は変わらないことを確認しあった。登録選手が1試合ごとに変更可能となる代替大会の開催も決まると、ミーティングでは「県大会、勝ちに行こう。優勝しよう」と全員で決めた。

「中途半端で終わらないように最後はやりきって、全員が納得いく形を作りたいです。レギュラーに2年生もいるのですが、勝ち進んで3年生全員が試合を経験して勝って終わりたいです」と小林主将。「秋よりも全然、まとまりがあります」と胸を張るチームで高校野球を完全燃焼する。

(高橋昌江 / Masae Takahashi)

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