桑田、清原は「モノが違った」 元日ハム・田中幸雄氏が甲子園で体感した驚愕のボール
ちょっとしたきっかけでプロ注目選手に…「打球ってこんなに飛ぶのか!」
3年生が抜けて新チームとなると、田中氏は主将に任命され、打撃でもプロへとつながるきっかけをつかんだ。高校入学後も伸び続けていた身長は、182センチに達していた。このタイミングで監督が交代し、それまでは左足のかかとを上げるだけのノーステップで打っていたが、「大きい体がもったいない」と言う新監督の指導で打撃フォームを改造。「ステップして打つようにしたら、打球がすごく飛んだんです。それまではレフト方向に引っ張ることもできなかったのに、ミートポイントを覚えたら、レフトにも入る、ライトにも入る。打球が伸びるようになりました」と自分に驚いた。
打球は練習グラウンドの左翼後方に張られた高いネットを越え、隣接する民家の屋根の瓦を何度も割った。「『ボールってこんなに飛ぶのか!』という感じで、ますます野球が楽しくなりました」。それまで打ったことがなかった本塁打が、2年生の秋以降の1年間で30本以上に上り、プロのスカウトの目にも留まった。結局、3年生では甲子園出場を果たせなかったが、堂々と日本ハムのドラフト3位指名を勝ち取ったのだった。
「僕は本当に運がいい。高2までの監督や、高3で打撃フォームを変えてくださった監督との出会いもそうです」と言う田中氏。「僕は、あいつにだけには負けたくないとか、誰かを蹴落としてレギュラーになりたいとかは思ったことがなくて、監督が使ってくれてトントン拍子にレギュラーになれました」と続けた。身長の格段の伸びなども重なったが、何より「補欠でもいいから、甲子園を目指してやり抜く」という高校入学時の決意がなかったら、“奇跡”は起きなかった。
田中氏に球児たちへ激励の言葉を求めると、こう言って笑った。「野球が好きなら、頑張るのは自然でしょう。うまくなりたい気持ちがあれば、練習は努力ではなく当たり前になる。できなかったことができるようになれば、楽しくなって、もっとよくなるんじゃないかと思って、もっと練習できる。楽しく一生懸命頑張っていけば、いいことがありますよ」