オリ山本を苦しめた“27球” 鷹・川瀬が忘れられない2週間前の悔しさと柳田の言葉
なぜ工藤監督は川瀬を6番で起用したか? 見出した特徴とは…
■ソフトバンク 4-0 オリックス(25日・PayPayドーム)
ソフトバンクは25日、本拠地PayPayドームでオリックスと対戦し、4-0で快勝した。投のヒーローが7回2安打無失点だった千賀滉大投手なら、打のヒーローは8回の中押し適時打を含む2安打2打点3出塁だった川瀬晃内野手だった。
この日「6番・遊撃」でスタメン起用された川瀬は見事にその期待に応えてみせた。2回の第1打席では球界を代表する好投手・山本に対して11球粘った末に12球目を中前安打。4回の第2打席ではしっかりボールを見極めて6球目で四球を選んだ。6回の第3打席でも左飛に倒れたものの、9球を投げさせた。この日6回112球で降板した山本に、川瀬1人で27球を投げさせた。
驚きを呼んだ6番での起用。今季はここまで25打数3安打の打率.120、打点は0だったから、それも当然と言える。工藤公康監督ら首脳陣はなぜ、川瀬を中軸に続く6番に据えたのか。指揮官は「ロッテ戦を見ていても、どの投手に当たっても、崩されずにズレとかもなかった。ついていっているところは打撃コーチも感じていた。1番にするか、6番にするか。粘っていいバッティングをしていた」と、その意図を説明した。
8回1死二、三塁のチャンスでは2番手の村西から左前への2点適時打を放ち、今季初打点もあげた。3打数2安打2打点、3打席で出塁した川瀬は「コーチからも割り切っていってこいと言ってもらっていて、ラクになった。持てる全ての力を出そうと思っていました」と試合後に振り返っていた。
8月11日のオリックス戦。二塁手として出場していた川瀬は5回に2つのエラーを犯した。その直後にチームは満塁弾を浴びて、一気に試合をひっくり返された。その時、マウンドにいたのが、奇しくも、この日先発の千賀。そしてヒーローになった柳田が「お前は悪くない。千賀は悪いんだ」と川瀬を庇い、千賀を叱咤していた。
「あの日を忘れないようにグラウンドに立っています。僕の周りの先輩たちは凄い人ばかり。いつも迷惑をかけてばかりなのに助けてくれる。次は僕が助けられるようになりたいです。あの日は完全に引きずっての2回目のエラーだった。それでも先輩たちは『まだ試合は終わっていないから前向いてやろう』と言ってくれました」
試合後、川瀬はちょうど2週間前の出来事をこう振り返った。まだ22歳。1軍での出場も、この日が61試合目だ。若く経験も少ない。それでも、先輩たちの優しさに甘えていてはいけない。あの日芽生えた悔しさと覚悟が、川瀬の必死さの礎になっているのだろう。
正遊撃手の今宮が左ふくらはぎの故障で離脱している今、川瀬にとっては大きなチャンスでもある。「今宮さんの怪我もあって、気持ちの部分でモノにするんだという気持ちでいます。去年とは気持ちの部分で違います」。あどけなさの残る姿から、ニックネームは漫画のキャラクターに因んで「コボちゃん」。ただ、そのプレー、振る舞いは日に日に“オトナ”になっていっている。
(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)