田中幸雄氏がイチローらと争った打点王 無失策記録の裏にいた“陰の恩人”

忘れない周囲への感謝、高田繁監督が使い続けてくれたのも大きい

 一方、田中氏にとっては、この打点王がプロ生活唯一の打撃タイトルだった。「僕はあまり、そういうことに関して欲がないんです。当時も、取れればいいな、くらいで、絶対に取りたいという思いではなかった。狙って取るほど、自分がすごい選手とは思えなかった」と穏やかな笑顔を浮かべる。同い年で、高校時代に仰ぎ見ていた清原和博氏は、結局1度もタイトルを取れずに終わっている。「あれだけすごい成績を残した選手が取れなかったというのは、それこそ不運としか言いようがない。僕は運が良かったんですよ」と言う。

「だって、そうでしょう?」と田中氏はいたずらっぽく笑った。「僕が2年目にエラーばかりしていた時には、誰もが数年でいなくなると思っていたはずです。実際、後に多くの先輩から『幸雄があれだけの選手になれるとは思わなかった』という言葉を聞きました。それでも、当時の高田繁監督が使い続けてくれたことに尽きます」と続けた。

 もちろん、本人の努力があったからこそだが、田中氏は「どん底から這い上がったというより、周りの人に押し上げてもらった。だから、僕は普通のプロ野球選手とはちょっと考え方が違うのかもしれないけれど、タイトル争いでも、絶対あいつにだけは負けない、とかは思えなかったです」と謙虚に語る。その言葉に、現役当時「球界一の好人物」と評された人柄が表れていた。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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