「勝つまでの距離は、まだまだ遠いよ」 56連敗で卒業、東大主将が後輩に残した言葉

7回にライトへの本塁打を放った東大・石元悠一【写真:荒川祐史】
7回にライトへの本塁打を放った東大・石元悠一【写真:荒川祐史】

笠原主将が後輩たちに残した「勝つまでの距離は、まだまだ遠いよ」の真意

 求めていたのは「惜しかった」「あと一歩だった」という慰めではなく「勝利」という結果だけ。笠原は1年秋の法大戦2連勝はベンチで体験。「苦しかった時もその記憶があったから、勝利を目指してやってこられた」。東大にとって特別な意味を持つ、それを本気で追いかけてきた。

 だからこそ、“接戦どまり”で終わってしまった現実も真正面から受け止めた。

 元中日で今年から指揮を執る井手峻監督は「力不足。他が強いのでなかなか勝てないですけど」と1年間を総括。競った試合についても「そこまでしかできない。そこを乗り越えるのが……もう一つですね」と、まだ壁があることを認めた。

 これで3年生以下の“勝利を知らない世代”が残り、新チームを担うことになる。笠原主将は「もう僕たちには何もできないので。後輩たちが今年の15試合から何かを感じてくれて、これからの東大野球部が勝ってくれれば」と願いを託した。

 その上で、残された後輩たちへのメッセージを問われると「勝つまでの距離は、まだまだ遠いよ」と言った。

「勝ちまであと一歩になった時、意識しすぎて体が固まってしまうことがありました。春の慶應戦も、社会人対抗の(NTT東日本戦の)最終回もそう。こっちから勝てるチャンスを手放してしまったのが今年のチーム。

 僕たちも練習から神宮の雰囲気をイメージして練習していますが、それでもまだ足りないということだと思います。今まで以上に目の前の1球、アウト1つ、得点1つをやっていかないといけないよ、ということは伝えたいです」

 その言葉は決して突き放すものではなく、難しさを当事者として感じたからこその温かさがあった。

 指揮官は壁を打破する課題について「きっちりとした守備を強化して、勝負所でなんとかいいバッティングができると……非常に難しいですけど」としながら、チームの完成度は「投手を中心とした守備は7割くらい。もう少し行くと勝てると思う」と来年の伸びしろを期待した。

 笠原は東大が東京六大学で戦う意味について、最終カードを前にこう言っていた。

「普通に生きていて、これだけ力差がある相手に挑む機会はなかなかないんじゃないかと、僕は思っています。その分、なかなか勝つことができないし、これだけ努力してもまだ届かないのかと、絶望感を味わうことも多い。でも、力差がある相手も本気で勝負をしてくれるんです。それで勝つチャンスをなんとか見い出そうとできるのは、東大野球部じゃなければ、日本のどこを探してもないと思っています。

 どれだけ力差があっても頑張る姿勢は僕たちしか見せられないものですし、文武両道の可能性を示せるのは僕たちしかいない。東京六大学という大学野球で一番高いレベルのリーグで、そこで僕たちが勝つことができれば、日本の部活だったり、野球だったり、そういうものに対する新しい価値観も生まれてくるんじゃないか。だからこそ、東大が戦い続ける意味があると、僕は思っています」

 近くて遠かった「勝利」という夢を後輩たちに託し、東大野球部の4年生は神宮に別れを告げた。

(神原英彰 / Hideaki Kanbara)

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