データを活用できるのは一流選手だけ? 動作解析の第一人者が警鐘を鳴らす使い方は…

川村准教授が最も大切にする「カウンセリング」作業とは

 研究者、そして指導者としての側面を持つ川村准教授は、実際データをどのように使い、選手が成長するサポートをしているのだろうか。

 まず行うのは、選手の投球動作や打撃動作を解析し、投球フォーム上やバッティングフォーム上の長所と短所をリストアップすることだ。なぜそういう風になっているのか、どういう方向を目指すことができるのか、選手が多角的に考えるきっかけを提示している。

「選手は自分がやっている動作の感覚はあるのですが、その動作を客観的に理解できていないことがあります。つまり、自分の良さや特性を分かっていないことが多いのです。そこで動作解析をしてデータという客観的に考える材料を元に、選択肢を提示しています。選択肢というのは、メリットとデメリットです。

 例えば、ホームランバッターになりたいと選手から依頼があったとした時に、その適正をみていきます。しかし、その選手がホームランバッターに適したスイングをしていないとすれば、スイング自体を変えるトレーニングを勧める場合もありますし、適正はアベレージバッターにあるのだからそのままでもいいのでは、という選択もあります。すべてにメリットとデメリットがあるので、僕らは『こちらに進むとこういうメリットがあるけれど、こういうデメリットもあります』という選択肢を伝えて、最終的に選手が進みたい方向を選ぶ手助けをしています」

 こんな例があるという。打撃では、変化球に対応するため膝を曲げてボールを捌くなど、脚の柔軟性が必要になってくる。だが、俊足の選手の中にはスイングをする時に踏み出した脚が真っ直ぐ伸びきってしまう選手がいるという。膝に柔軟性がなくなれば、縦に変化するボールへの対応は難しくなり、空振りが増える。

「すごく足の速い選手の場合、筋肉の反応が良すぎて、体のどこかに力が入ると脚がすぐに伸びきってしまうんですね。運動指令の伝達が速いのは長所ですが、バッティングに置き換えるとそうとも言えない。では、打席で柔軟で対応できるようにしようとなると、走る時にパッと瞬間的に出ていた力が十分に出なくなってしまう。どちらを選んだらいいのか。そこを一緒に考える作業にかなりの時間を割いています」

 動作解析=データの分析・提示、と思われがちだが、川村准教授が最も大切にしているのは「カウンセリングの部分ですね」と話す。

「動作の分析はほとんど機械がやってくれますし、そんなに難しいことじゃない。大切なのは、データを参考にしながら、どういう方向性に進みたいか、そのためにはどんなトレーニングをしていけばいいのか、それぞれの選手やコーチと話し合い、実践する作業です」

データを野球に活用する時は「木を見て森を見ず、になってはいけない」

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