井口の二塁起用は「指導者人生を賭けた」 ロッテで“まな弟子”支える名伯楽の思い

今季からロッテの1軍野手総合兼内野守備コーチを務める森脇浩司氏【写真:荒川祐史】
今季からロッテの1軍野手総合兼内野守備コーチを務める森脇浩司氏【写真:荒川祐史】

二塁コンバートに成算「井口の個性が最大限に生かされる」

「井口の個性が最大限に生かされるのはセカンド」という成算があった。その裏には、当時の時代の流れも反映されていた。「各球団の本拠地球場が概ね両翼92メートル程度から100メートルへとサイズアップし、特にホームランテラス設置前の福岡ドームは広かった。パ・リーグでは各チームが左の強打者を3~4人スタメンに組み込む編成に動き、右中間を抜く当たりが増えつつあった」と言う。さらに、森脇氏は「ホークスを常勝球団にするには、カットマンとして深い位置から三塁、本塁へ的確に送球できて、広い守備を持ち、さらにゲッツーを高いレベルで取り切る能力を持った二塁手が不可欠だと考えていました」と意図を説明した。

 井口監督自身にも、コンバートの効用はあった。「当時の彼のボディバランスは左に偏っていました。右打ちの打撃で、投手方向へ突っ込んでしまう課題があったのも、そのためでした」と森脇氏。「しかし二塁手は、一、二塁間のゴロを捕球し反転して二塁へ送球するプレーや、5-4-3、6-4-3の併殺プレーを、左バランスのままではこなせない。自ずとボディバランスが修正され、格段に攻守のレベルが上がる」と見ていた。

 反復練習は凄まじかった。「向上心、好奇心が強く、チャレンジ精神旺盛で、その資質と日々の努力で困難なコンバートを乗り越え、自ら成功をつかみました」と森脇氏は称える。

 井口監督はコンバート初年度の2001年、プロ生活を通じて最多の30本塁打、44盗塁をマークし、盗塁王のタイトルを獲得。二塁手としてもベストナインとゴールデングラブ賞に輝き、見事に結果を出した。2005年にはメジャーへ移籍し、ホワイトソックスのレギュラー二塁手としてワールドチャンピオンの座に登り詰めた。

 その井口監督が、自身のターニングポイントに関わり、いまや還暦を迎えた森脇氏を改めてコーチとして招聘したことは意味深い。森脇氏は「当時の一日一日の歩みは、私にとっても大きな財産です。彼の変化が私のエネルギーだった。向上心に満ちた“井口選手”から頂いたご恩をしっかりとお返しした一念です」とうなずく。いかにして古巣ホークスに挑むだろうか。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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