長嶋茂雄氏から諭す電話も… 高橋慶彦氏が明かすトレードの真相とカープへの愛
丸の人的補償で広島移籍の長野久義の気持ちが「よくわかる」その理由は?
「言いたいことを言ってきた。力がなくなれば、しっぺ返しを食らうことは覚悟していた」と一本気な高橋氏に悔いはない。ただ、恩師の古葉氏がもっと監督を続けていてくれれば……という思いは少し残った。「俺は古葉さんの秘蔵っ子やけんね。あの人があと5、6年監督をやってくれれば、通算2000安打も楽に打てた(通算1826本)。あの人の責任と言いたいね」と冗談めかして笑う。
こうしてトレードでロッテへ移籍したが、100試合出場、打率.207、7盗塁と精彩を欠き、わずか1年で今度は阪神へ移籍。「俺は広島の長野(久義)選手の状況がよくわかる気がする」と言う。長野は2018年オフ、FA移籍した丸の人的補償として巨人から加入したが、19年は72試合出場、打率.250、5本塁打、20打点の不振。20年には95試合、打率.285、10本塁打、42打点と持ち直している。
「2019年も、ずっと試合に使い続けていれば長野選手はそれなりの成績を残したと思う。巨人で打ち続けてきた選手だもの。しかし、調子によって出したり出さなかったりした。そうすると選手には『打てないと替えられる』という焦りが生まれ、力んで空回りするという悪循環に陥る。移籍で失敗する場合はだいだい同じ理由。俺もそうだった」と高橋氏は語る。
阪神ではさらに出場機会が減少。「年齢的にも辞め時だと思った」と35歳で現役引退を決意した。「ファームで自分から『辞めます』と言ったけれど、いつ、誰に伝えたかも覚えていない」というほど淡々とした結末だった。
高橋氏は通算18年の現役生活を振り返り、改めて「カープだったから、俺という選手が生まれた。他のどの球団にいたとしても育っていない。若い頃はよう怒られたけれど、カープの申し子みたいなものよ」と考える。それほど、当時の広島は古葉氏に高いレベルの野球を仕込まれ、徹底していた。
カープ黄金期を担った高橋氏の目から見ると、現在のプロ野球は物足りなく映る時がある。「最近はどの球団も“ギャンブルスタート”(相手の前進守備に対し、打者のバットにボールが当たった瞬間、三塁走者がスタートを切り生還を狙うこと。打球がライナーなら併殺となるリスクがある)をやるが、ギャンブルとは技術のない者がやることだ」とバッサリ。「ちゃんと技術を教えて、訓練しておけば、ボールがバットに当たる瞬間の角度などで、高いバウンドになるのか、地をはうようなゴロになるのか、全てわかる。ギャンブルスタートなんかいらない」と言い切る。
古葉氏に育てられ、古葉野球の体現者としてスターの座に就き、古葉氏の退団とともにエピローグを迎えた。高橋氏の現役生活は潔く首尾一貫していた。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)