ロッテ美馬が明かすFA宣言の真実 突き動かした愛息への想い「あのまま仙台にいたら…」
「ウチに生まれてきたからこそ、この子にできることがあるんじゃないの?」
出産前のエコー検査では、右手が左手に隠れる姿勢になっていて、誰も手首から先がないことに気付かなかった。五体満足で生まれてくると思っていた我が子を巡る予想外の展開に、アンナさんは悩み、落ち込み、絶望すら感じたという。そんな妻に美馬は言った。
「『あれもできない。これもできない』って、すごくネガティブなことしか言わなかったんです。でも、そうは言っても、今からどうしようもできないことじゃないですか。だから聞いたんです。『じゃ、手がないって分かっていたら生まなかったの?』って。それは違う。僕はとにかく、最初からホントにかわいくてかわいくて(笑)。『違う家だったら分からないけど、ウチに生まれてきたからこそ、この子にできることがあるんじゃないの? ウチだったから良かったんじゃない?』って話をしました」
同じ頃、産院の院長がメジャーで活躍した伝説の隻腕、ジム・アボットの本をプレゼントしてくれた。「『書店に置いてなかったから必死で探したよ』って本をくれたんです。いろいろな人が前向きになる要素を持ってきてくれた。そのおかげで今があるんじゃないかと思います」。2人で先天性欠損症や障害者野球について調べ始めると、それまで全く知り得なかった世界があったという。
「みんな普通に野球をやってるんですよ。しかも、自分より上手いくらいの選手もいたりして、本当にすごい。息子がきっかけをくれなかったら、全く気付かなかったと思います。僕はプロとして野球をしているけど、プロの世界には障害を持った選手はいない。当たり前のように両手で野球をしていたけど、実は当たり前のことじゃないんだって感じましたね。それまでは当たり前過ぎて、全く何も考えてなかったです。ただ野球をやって、勝った、負けた、嬉しい、悔しい、くらいな感じ。両手を使って当たり前に野球をできるってすごい幸せなんだなって感じるようになりましたね」
息子の誕生をきっかけに新たな視点と価値観を持つようになった夫妻は、スポーツを通じて障害者と健常者の壁がない社会になるよう、自分たちにできる活動を始めることにした。こうした気付きを与えてくれた息子には、感謝の気持ちでいっぱいだという。
「多分、2人だけでいたら、こんな気付きはなかったと思います。いろいろなところに目を向けながら野球をやっていった方がいいよって言われている気がしましたね。さらに、目を向けるだけじゃなくて、行動することもできるようになってきた。息子をきっかけに、不思議といろいろなことが繋がり始めた気がするんですよね」