実は公式試合球は「白球ではない」 縫い目の数は…意外と知らないボールの秘密

オールスターで使用されたボールは縫い目の色が違う

 ペナントレース以外でも特別な試合がある。例えば、オールスターでは縫い糸の色が変わる。東京ドーム開催の時は赤と巨人のチームカラーのオレンジ、地方球場の時もその土地のイメージにあった色の縫い糸が使用されたりもした。

「日本シリーズとか大きなイベントではボールにロゴが入ったりします。縫い糸の話ですが、今のご時世だったら、医療従事者のために青の縫い糸を使用したり、ピンクリボン運動啓蒙のためにはピンクにして試合をするのもいいのではないかと思います。それをオークションにかけて、寄付金にするなど、そういう試みがあってもいいなといつも感じています」

 大野さんから“逆質問”を受けた。「野球の硬式ボールの縫い目はいくつあると思いますか?」。筆者は回答することができなかった。正解は「煩悩の数ですよ」と教えていただいた。108個の縫い目がある。

「ボールは2枚の革を引っ張り、きれいな球状を保ちながら縫っていきます。現在の球の標準規格として、一番しっくりくる縫い目の数が、たまたま人間の煩悩数と同じ108になっただけ、と聞いています(笑)」

 バットやグラブ同様に、硬式ボールも丁寧に人間の手で作られる。プロ野球の世界ではないが、ボールを足で扱うような場面が育成世代の野球で見られることがあることに心を痛めている。

「野球経験者なら小さい頃とかに見たことがあるかもしれませんが、ボール集めで足を使ったり、ボールを蹴るという行為は、やってほしくないですね。もしも、少年たちがやっていたら大人は注意してほしいなと思います。スパイクで蹴ったらボールが傷つきます。軟式だって同じです。競技の中でボールがボロボロになるのは許せますが、遊びや扱い方を間違えて、傷つける行為は、道具を扱う立場としては許せないですね」

 これまでバット、グラブ、そして今回のボールの話を大野さんに伺ったが、全て共通しているのは道具に、そしてその作り手に敬意を払ってほしいということだった。プロ野球の世界でも道具に当たるようなことは御法度。見つかれば、首脳陣やフロントから叱責される。

 大野さんは野球少年少女には道具は大切に扱ってほしいと願う。

「ボールを蹴飛ばして集めたりするのはもうやめようね、と伝えたいです。野球の神様が見ていますよ。感謝の心を持って、取り組んでほしいと子供たちには伝えたいですね。グラウンドを手配してくれている人がいる。野球の道具を揃えてくれる人がいる。もっと言えば、ボールなどの野球道具を作る職人さんがいる。その人たちへのリスペクトも忘れないでもらいたいですね」

 いつまでも感謝の思いを忘れずに、ボールを追いかけてほしい。

(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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