田中将大、8年ぶり復帰マウンドの注目点は? データが示すメジャー7年間での“変化”

変化球別の奪空振り率【表:PLM】
変化球別の奪空振り率【表:PLM】

縦に変化する「二枚刃」の切れ味

 田中将の投球を紐解く上で肝心要なのが、決め球として用いた2球種の存在だ。メジャーでの7年間で、スライダーを全球種最多の4715球、次いでスプリットを4372球投じた。通算被打率もスライダー(.196)がベストで、スプリッター(.207)とはワンツーだ。他4球種はいずれも3割台であるため、決め球のボールがいかに威力を発揮したか、積み重ねた数字が教えてくれる。ただ、近年はこの2球種の使い方に変化が起きていた点は見逃せない。

 まず、海の向こうでもセンセーションを巻き起こしたスプリットだが、ここ数年は落差が低下し、以前ほど空振りが奪えなくなっている。2018年から縦の変化量(マウンドの高さ10インチを含む)は平均34.0インチ(約86.4センチ)→31.9インチ(約81センチ)→27.9インチ(約70.9センチ)と減る一方で、3年の間に約15センチも落差が失われた。その結果、空振りを奪う割合は36.2%→18.7%→23.0%とブレーキがかかっている。それでも低めに集めて、被打率は.210→.254→.207と大幅な上昇は避けているが、当時とイメージはやや異なるようだ。

 昨季は短縮シーズンのため投球数自体が少なかったが、それ以前から田中将がスプリットの落ち方に苦心する様子は何度も伝えられていた。思い通りに操れなかったとの本人のコメントもあり、一過性の現象とは受け止められがたい。

 一方、スライダーへの依存度は年々高まっている。投球割合は2年目から増え続け、昨季は37.7%にまで上った。スプリットよりも縦の変化量が大きく、空振りを奪う割合は毎年安定して30%を超える上に、汎用性も高い。カット気味に高速で小さく変化させたり、緩いスピードで大きく曲げたりと、その時々で自在に操っている。

年度別の三振を奪った変化球【表:PLM】
年度別の三振を奪った変化球【表:PLM】

 直近2年はスライダーで最も多く三振を奪っている事実にも、この球種に対する田中将の信頼が透けて見える。球種別の奪三振数も、近年になってスライダー(383)がスプリット(359)を追い越した。

 今季、ここ一番の場面で田中将は、2つの決め球をどのように使い分けるだろうか。オープン戦で奪った13三振のうち、スライダーは6、スプリットが2で、いずれも低めへ投じられたボールだった。使用球が変わって変化球の曲がりや落ち幅に影響があるかもしれないし、実戦ではバッテリーを組む捕手の判断や相手打者の力量も関係するだろう。

 昨季のパ・リーグでは、スライダーに栗山巧(西武)が.333、柳田悠岐(ソフトバンク)も打率.325と好成績を残し、フォークには吉田正尚(オリックス)が打率.449と破格の数値を記録している。チームの勝敗を左右するような場面では特に、リーグを代表する打者たちに対して、田中が「二枚刃」をどう駆使するか見物だ。

 ピンストライプのユニホームに身を包んでから、田中将は決め球以外にも微細な工夫を加え続けてきた。試行錯誤の足跡は、シーズンごとの球種別投球割合に表れている。2014年は、あらゆる持ち球を織り交ぜていた。翌2015年はよりバランスが良くなり、全球種とも投球割合7.2%以上の配色グラフは7年間で最も均整がとれている。だが、最初の2シーズンとも4シーム(速球)は被打率3割以上で、被本塁打は最も多く、明確に打ち込まれたボールだった。

攻め方の引き出しが増えた「投球術」

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