甲子園で賛否を巻き起こした超スローカーブ 小さな右腕の今と明かされる真実

168センチの右腕「小さくても勝つことができる、大切なことを伝えられた」

 当時、ダルビッシュ有投手も加わり賛否両論が巻き起こった。西嶋さんは「批判については、こういう大人もいるんだなと冷めた目で見ていました。でも、やっぱりその人たちに言われたくないので、初戦ぐらいは絶対勝たなきゃと思いました」と笑う。

 1球捨てる余裕は、いつでもストライクを取れる基本技術があったからこそ持つことができた。西嶋さんが基本の重要性に気付いたのはの高校2年の冬。秋の北海道大会準決勝で駒大苫小牧に延長12回0-1で敗れ、何が足りないのか徹底的に考えた。

「野球のレベルが1から10まであって、例えば1がキャッチボール、10がホームランとしたら、負ける時はだいたい1とか2が失敗して負けると思うんです。キャッチボールとか全力疾走ですよね。ホームランを打てなかったから負けるという試合は絶対にないと思います」

 そう気が付いて、冷静に考えると3年間で1から10まで全部求めることは時間的に不可能だと悟った。「だから僕は1から3までを完璧にしようと思いました」。初球ストライクを取る、先頭打者を抑える、バント処理を失敗しない……。「誰でもできることですが、1から3は日本で一番やってきて、失敗しない自信がありました。球が速い訳でもなく、大した実力もないですが、甲子園までの予選では当たり前のプレーでミスはしていません」と言い切る。

 ウエートトレーニングや食トレには目をくれず、とにかく野球の勉強に時間を割いた。対戦相手のビデオは、打者のタイプを長所と短所が分かるまで見続け、AからDの4タイプに分けて、頭に叩き込んだ。スポーツ新聞を全て購入して相手の監督や選手が発したコメントを読み、どんな性格かまでイメージを膨らませ、試合中の作戦とすり合わせながら、先を読んだ。

「当時、監督には『バッテリーには口出ししないでくれ』ぐらいのことを言っていました」と懐かしそうに笑った西嶋さん。原動力は身長168センチの小柄な体に秘めた反骨心だった。「小さくても勝つことができるんだぞ、という一番大切なことを甲子園で伝えられたと思います」と7年前の自分に胸を張った。

(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

RECOMMEND