“美しすぎる野球選手”が一人歩き「しんどかった」 引退の加藤優が明かす苦悩と使命
プロからアマチュアは「モチベーション維持が難しかった」
2020年12月に行われた女子野球ワールドカップの日本代表を決めるトライアウトで落選。ベストな状態で迎えたはずだった。「自分の力を出し切って受かることができなかったので。その時に引退というのは考えました」。選手としてプレーした今季も、1度感じた限界を超えることは難しかった。
「みっともない姿を見せたくなかった。憧れられるような選手のままで終わりたかったです。プロからアマチュアに行って、結果だけを考えなくてもいい部分もあったんですけど、お客さんに見せなきゃいけないというものもなくなった。私の中で、モチベーションの維持が難しかった原因かもしれません」
奇しくも“美しすぎる”と視線を浴び続けてきたことが、自らの活力になっていたことにも気づいた。それでも、この半年間で視野も広がった。「野球を楽しむということができたと思います。それはプロで活動していた時とはまるっきり違いました。今回も初の全国大会で結果としては、負けてしまったんですが、チームとしては楽しんでできていたと思います」。試合中は「緊張したらコーラ抜きだぞ!」などと、チームメートからワイワイと声が飛ぶ。結果としては初戦敗退となったが、その雰囲気は試合後も変わらなかった。
後輩たちが、背中を見てきたのも知っている。主将を務める岡田桃香外野手が女子プロ野球に合格した際には、面識がなかったにも関わらず「何でも相談してね」とSNSでダイレクトメッセージを送った。岡田にとっては「気配りの人で、人間性も素晴らしく憧れ」。誰もが認める“気配りの人”。この日も、詰めかけたファンひとりずつ丁寧に写真やサインに対応し、1時間以上も笑顔を絶やさなかった。
選手としては一区切り。ただ、球界で培ってきた経験は、生かしていく責務がある。DeNAの「ベースボールスクール」のコーチを続けつつ、スポーツキャスターなどへの挑戦にも意欲を抱く。「新しいことに挑戦していって、色々な形で女子野球を盛り上げていきたい」。ニコリと笑い、26歳は第2の人生を歩み出す。
(川村虎大 / Kodai Kawamura)