イチロー氏も認めた「徳の高さ」 退任会見に覗いた侍ジャパン稲葉監督の“人柄”

退任会見で何度も号泣「すぐに泣いちゃう」

 もともと自ら「すぐ泣いちゃう」と認めているが、これほどピュアに感情を表現できる人物には、厳しい競争社会である球界ではなかなかお目にかかれない。

 また、会見では選手を呼び捨てにせず、「坂本選手」、「山田選手」という風に呼んだ。試合終了直後などには思わず「キク(広島・菊池涼介内野手)」「勇人(坂本)」「コンちゃん(日本ハム・近藤健介外野手)」などと口にしたこともあったが、プライベートと公の場を明確に分ける折り目正しい人柄なのである。

 就任当初は、NPB球団で監督経験がないことを危ぶむ声もあったが、見事に覆した。逆に言えば、侍ジャパンに選出される選手は当然超一流ぞろいで、監督の方針を理解する力、実行力も高かった。もしNPB球団の監督に就任すれば、発展途上の選手を根気良く起用し、育てながら勝利をものにしていくことも求められる。そこではまた全く別の対応を求められるだろう。

「私の今後の具体的な活動は未定ですが、野球界を支えていきたい。微力ではありますが、野球界の発展に貢献していくことが恩返しになると考えています」と稲葉監督は言う。

 恩師の野村氏は「財を遺すは下、仕事を遺すは中、人を遺すは上」という言葉を好み、講演会などでよく使っていた。利益を生むこと、事業を発展させること以上に、人材を育成し次代につなげることこそ最も価値が高いという意味だ。日本野球界の悲願だった金メダルを獲得した稲葉監督は、見事に「仕事を遺した」と言えるだろう。そしていよいよ「人を遺す」ことに重心を移していくのかもしれない。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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