「注射なんて死ぬほど打った」故障ばかりの10年間…苦悩の経験を生かす第2の人生

師・斉藤和巳氏からの言葉「満足してやめられる人は、なかなかおらん」

 終わりよければ――なんて、簡単な言葉で片付けるつもりはない。自分ひとりだったら、とっくに諦めていた。故障した当初、ソフトバンクの3軍リハビリ担当コーチとして自身も復帰を目指していた斉藤和巳氏の存在に助けられた。リハビリで同じ時間を過ごし、心の保ち方も聞いた。今でも師と仰ぐ元沢村賞右腕には引退を報告。「満足してやめられる人は、なかなかおらんからな」。労いの一言が、ただうれしかった。

 もちろん、治療に携わってくれた医師や専門家、ファン、家族……。「たくさん助けられたからこそ、復帰できました」。今度は、自分が助ける側になれないか。現役引退の節目を迎え、そう思うようになった。「僕は(怪我をした人の)気持ちが少しでも分かってあげられるかもしれない。治療の資格を取ることを考えています」。柔道整復師や鍼灸師などを視野に、情報を集める。

 技術を身につけなければいけないのはもちろん「言葉ひとつで人の心は動いてしまうので、治療以外に、そこも勉強していきたい」。ろくに投げられなかった10年間だって、無駄にはならない。マウンドから降り、人の心に寄り添っていく。

(北原野乃 / Nono Kitahara)

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