松坂大輔が背負い続けたものとは? 涙あり笑いあり、全てをさらけ出した引退会見

後ずさりしながら会見場をあとにした理由

 さらに「『そろそろ辞めるかもしれない』と話していた段階では、子どもたちは『一緒に遊ぶ時間が増えるから、うれしい』と喜んでいました。実際に『辞める』と報告した時も、『やったー! お疲れ様!』と言われるのかと思っていたのですが……みんな泣いていました」と語りながら、何度か涙で言葉を詰まらせた。

 野球選手はこういう時、野球について話す分には我慢できるが、家族に言及した途端、感極まる。東京五輪で侍ジャパンを金メダル獲得に導いた稲葉篤紀前監督も、9月30日の退任会見で、妻と子どもたちに対し「感謝の気持ちを伝えさせて下さい」と言った瞬間、突然声を震わせ、号泣しながら「本当にありがとう!」と叫ぶようにして言った。松坂の場合は妻も著名人で独特の重圧、バッシングにさらされてきただけになおさらだっただろう。

 一方、湿っぽくなりすぎたと感じたのか、場を和ませる一幕もあった。松坂の引退セレモニーは改めて、12月4日にメットライフドームで開催されるファン感謝イベント中に行われることが発表された。「ファンの方々には、そこで直接何かを伝えられたらと思います」と語り、「今日はナイターで、観客の皆さんにはたぶん(終電までに)時間がない。僕の気遣いです!」と冗談めかして付け加え、笑いを誘った。

 また、会見前から報道陣には、ユニホームの背番号「18」の画像を登板前には掲載しないでほしい、との意向を伝えていた。この日のために背番号を「16」から長年慣れ親しんだ「18」に変更した松坂は、ファンにはグラウンド上で最初に見てほしいと考えていたからだ。実際、終始背中を見せることなく会見を終えた松坂は、いたずらっぽい笑顔を浮かべ、後ずさりしながら退場して笑いを取ったのだった。

 プロ1年目から「リベンジします」とのセリフが新語・流行語大賞に輝き、「自信から確信に変わりました」と名言も吐いた松坂。故障に悩まされ続けた現役後半は、言動がメディアを賑わす機会も減っていたが、引退会見で改めて抜群のコメント力と豊かな人間性を示した。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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