東大4番・井上、社会人で現役続行へ 一橋大入学も再受験で“3浪”入学、異色の経歴

東大・井上慶秀【写真:小林靖】
東大・井上慶秀【写真:小林靖】

東大の4番・井上は今季全10試合出場して打率.281「明日から練習しなければ」

 東京六大学秋季リーグ戦が24日、明治神宮球場で行われ、第1試合ではこの試合が今季最終戦の東大が法大と0-0で引き分けた。「東大で野球がしたい」と一念発起。“3浪”の形で夢をかなえた25歳の4番・井上慶秀内野手は万感の思いで神宮を去った。

 勝利まであと一歩だった。井上は7回、1死走者なしで第3打席に立ち、この回から登板した法大2番手の左腕・尾崎から左前打。176センチ、92キロの巨体を揺すって一塁に到達すると、代走・伊藤翔吾と交代してベンチへ下がった。その伊藤翔が二盗を決め、松岡泰希も四球で出塁して1死一、二塁。水越健太は三ゴロに倒れるも、なおも2死一、三塁と先制機は続いた。しかし、途中出場の櫻木隼之介が空振り三振に倒れ、とうとう走者を本塁へ迎え入れることはできなかった。

 ベンチへ下がった後も大声を張り上げチームを鼓舞した井上は、「なんとか勝ちたかったというところですね。4年間で2勝。なかなか勝てなかったです。もっと勝たないといけないです」と無念の表情を浮かべた。

 とはいえ、今季は立大から1勝。春季リーグでも、法大に勝って3勝した2017年秋以来7季ぶりの白星を挙げ、早大とも引き分ける健闘を見せた。

 井上の人生は波乱万丈だ。長野高時代に打撃を生かすため、捕手から一塁手へ転向。卒業後は、2浪後に1度は一橋大に入学し、準硬式野球部に入部した。ところが、この年の秋季リーグで、東大は当時4年の宮台康平投手(現ヤクルト)らが活躍し、法大から2勝、慶大から1勝して計3勝。これを見て、井上の“東大野球熱”がむくむくと頭をもたげた。数か月後に受験し、結局“3浪”の形で東大に合格。念願のユニホームに袖を通したのだった。4年となった今季は全10試合に出場し、.281(32打数9安打)の高打率をマークした。

「これも、宮台さんたちの世代の活躍を見たからで、縁に恵まれているというか、いろいろな人に導かれて野球ができていると思います」と感慨深げだ。しかも、1度沸騰した野球熱は、4年間では収まらなかった。

 たとえば、主将で理学部の大音周平は大学院へ進むと言うが、井上は対照的に、社会人で野球を続ける決意を固めている。「僕のレベルだと、まず試合に出られるようになるために、明日から練習しなければいけない。意外に時間はない。この秋の反省をし、明日から練習を頑張ります」と語った。少し遠回りの野球道を、井上はまだまだ歩き続ける。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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