壮絶なイップス克服体験「死ぬほど練習した」 引退まで向き合い続けた“恐怖心”

引退の寂しさもあるが反面「もう投げたくないっていう思いもある」と語る村中恭兵氏【写真:荒川祐史】
引退の寂しさもあるが反面「もう投げたくないっていう思いもある」と語る村中恭兵氏【写真:荒川祐史】

引退の寂しさ反面「もう投げたくないっていう思いもある」

 翌2016年は主にリリーフとして52試合に登板。7勝3敗6ホールド、防御率3.90をマークした。ただ、“元凶”となった腰の状態は好転することなく、騙し騙しのマウンドでは長くは続かなかった。2018年オフに手術したものの、2019年は状態が戻らずに1軍登板なし。戦力外となった後は独立リーグなどで2年間現役を続け、この秋に引退を決断した。

 発症してからも投げ続けた6年間。側から見れば綺麗さっぱり克服したように見えるかもしれないが、ゆっくりと首を横に振る。

「イップスになると、ずっとその意識は拭えない。少なからず、絶対にある。その度合いが大きいか小さいか、というだけ。一生、消えることはないです。その中で投げるしかないです」

 最後の1球まで、頭の片隅には、制球を狂わす恐怖が居座っていた。屈する選手も少なくない中、村中氏は自身の胸中と折り合いをつけながら向き合ってきた。「いいのか悪いのか分かりませんが、諦めの悪さはすごいと思います」。不屈を貫いた自らを顧みて、穏やかに笑う。

 現役引退に、もちろん寂しさはある。その一方で、安堵する気持ちがのぞくのも事実。「何だかんだ言って投げたいという思いはありますけど、もう投げたくないっていう思いもあります」。打者だけでなく、自分自身との戦いも、ようやく終わりを迎えた。

(小西亮 / Ryo Konishi)

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