「江川にカーブを投げさせた男」 元中日・中尾孝義氏が明かす“伝説”の舞台裏

中日、巨人などで活躍した中尾孝義氏【写真:中戸川知世】
中日、巨人などで活躍した中尾孝義氏【写真:中戸川知世】

1982年に難攻不落の江川を攻略、リーグVを果たしMVPを受賞

 残念ながら、2人は慶大の入試には不合格。江川氏は法大に入学した。中尾氏は1浪後に専大へ進み、さらに社会人のプリンスホテルを経て、1980年ドラフト1位で中日に入団したのだった。

 そして中尾氏はプロ2年目の1982年、巨人の絶対的エースとなっていた江川氏から球史に残る一打を放つ。この年、中日と巨人は激烈な優勝争いを演じていた。最終盤の9月28日、ナゴヤ球場での直接対決は6-2と巨人がリードして9回裏を迎えた。マウンドには完投ペースの江川氏がおり、中日にとっては絶望的な状況だった。ところが中日は2点を奪い、なおも1死二、三塁。ここで中尾氏は江川氏が投じた外角速球を捉え、同点の右前2点打を放った。

「僕の野球人生で、速さだけなら江川より速い投手もいました。しかしホップするように見える球質の面で、江川以上の投手はいませんでした。ベルトの高さかなと思ったボールが、3、4個分上の胸くらいの高さに来ました」と中尾氏は証言。ただ、「僕は高校時代が1番凄かったと思っています」と言い切る。だからこそ、プロ2年目のこの球もそれほど速くは感じなかった。「ましてや、江川はあの試合で既に130球か140球を投げていて、本来の速さではなかった。僕の打撃の技量も高校時代よりは上がっていましたから」とうなずく。

 中尾氏のタイムリーで追いついた中日は延長10回裏、大島康徳がリリーフした角三男から決勝打を放ちサヨナラ勝ち。2位ながら引き分け数が多かった中日に、逆マジック「12」が点灯した。最終的に中日が巨人をわずか0.5ゲーム差でかわし、8年ぶりの優勝。中尾氏はシーズンMVP、ベストナイン、ゴールデングラブ賞に輝いた。

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