「江川にカーブを投げさせた男」 元中日・中尾孝義氏が明かす“伝説”の舞台裏

“10連続K”を狙った84年球宴、ワンバウンドにするはずの変化球が高めに浮いた

 その2年後の1984年には、2人はオールスターでバッテリーを組み、1971年の江夏豊(阪神)の9者連続三振に迫る“8者連続”を達成した。9人目の打者の大石大二郎(近鉄)もカウント0-2と追い込んでいたが、カーブを当てられ二ゴロ。中尾氏は周囲から「なぜカーブを投げさせたのか。ストレートなら三振を取れただろう」と言われた。高校時代とは別の意味で「江川にカーブを投げさせた男」となったわけだが、今では2人の間に“密約”があったことが知られている。

 球宴で投手は最大3イニングまでしか投げられない中、6者連続を奪った時点で中尾氏は江川氏から「タイ記録ではつまらない。10者連続を狙いたい」と申し入れを受けていた。9人目の打者を2ストライクまで追い込んだら、江川氏はワンバウンドのカーブを投げて空振りさせ、中尾氏は故意に後逸して“振り逃げ”で一塁に生かし、次打者から10者連続三振を奪う目論見だったのだ。ただ、勝負のカーブは狙いよりも高めに浮き、バットに当てられてしまった。

 中尾氏は「江川は“惜しかったな~”とあっけらかんとしていました。捕手としてはストレートをパスボールすることはできませんが、ストレートを投げていれば9者連続は取れていたと思います」と振り返る。そして「江川はプロ入り後、シーズン中は常に完投・完封を意識し、ある程度スタミナを温存しながら投げていましたが、あのオールスターだけは“高校時代に近い球”が来ていました」と評する。あくまで、あの高校3年の春を超える球を見ることはなかったのだ。

「江川がライバルだったなんて、とんでもない。雲の上のスーパースターでした」と中尾氏。とはいえ、江川氏がオールスターで“密約”を持ち掛けることができたのは、捕手が縁の深い同学年だったからこそだろう。昭和の怪物にとっても中尾氏は、特別な存在だったに違いない。

【動画】江川の凄さは「おしり」? 中尾孝義氏が明かした昭和の怪物から受けた衝撃

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