手術後も「自分と向き合う時間に」 花巻東・佐々木麟太郎の16歳らしからぬ風格

選抜出場を決めて喜ぶ花巻東ナイン【写真:荒川祐史】
選抜出場を決めて喜ぶ花巻東ナイン【写真:荒川祐史】

入院中は神宮大会などの試合映像をチェック、見えてきたものがある

 憧れ続けた甲子園。出たくないわけがない。肩の可動域を広げるリハビリや下半身トレーニングをする視線の先では仲間たちがボールを追いかけている。「仲間が日本一に向かって練習している姿を見て、自分も頑張らないといけないと思います。そこが支えになっています」と刺激を受けている。入院先では、神宮大会の映像をチェック。これまでは技術を追い求めてきたが、客観的に自分のプレーを見る時間ができ、野球の見方、考え方に変化が出てきた。

「振り返る時間というものがそう多くはなかったので、課題が見つかったり、反省することができています。まだまだ改善していかないといけないところが多くあります。打撃の精度、変化球の対応、しっかりと追い求めてやっていきたいです」

 ひとつひとつの言葉を丁寧に用いて、気持ちを表現する姿は16歳とは思えない。漂うプロ野球選手のような風格に驚かされた。患部の細かい説明を報道陣から問われても的確に回答し、胸郭出口症候群のことを頭で理解し、治療法について勉強していることが伝わってきた。

 だからこそ、焦りが生む危険についても理解しているのだろう。周りが期待するのは、怪物1年生の本塁打かもしれない。だが、麟太郎は「本塁打は自分のひとつの武器であるのかもしれませんが、まずはチームのことに徹することが一番です」と個よりも和を強調していた。

 もしかしたら、十分に調整できず、本調子ではない状態で甲子園の開幕を迎えるかもしれない。たとえ、そうだとしても、麟太郎は野球人として、未来への収穫を見つけ、チームに貢献するプレーで頂点を目指すだろう。監督が伝えた「自分と向き合いながら」という言葉に、今回の試練を乗り越える方法が記されており、それが成長の後押しとなる。高校通算50本の怪物1年生の魅力はその放物線だけではない。

(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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