ポジションぐるぐる移動… 新庄監督が仕掛けた“異例すぎるノック”が生む緊張感
ノック中、中堅の“定位置”では数々の新庄語録が
ノックの最中、新庄監督は現役時代の“定位置”だった中堅から選手の動きを見つめていることが多い。動きに目を光らせ、違うと思ったらすぐにアドバイスを送ることも。さらにスタンドの報道陣にも、その意図を説明してくれることがある。
例えば右翼線への打球を万波が処理。ただ二塁への送球が高めへ逸れた。「慌てると、高くなるでしょ。あれをフラフープの中で練習するの。何回もやらせないとダメだね」と、キャンプ2日目に披露した、高さ3メートル弱のところに置いたフラフープの中をくぐらせて送球する練習の意味を説明した。より低く、より強く、そして正確に。どんなプレッシャーがかかる場面でも同じようにやってみせるには、練習で体に染み込ませるしかない。
そして、コーチに対する“口撃“も。ノックを打っていた新任の稲田直人コーチがなかなか思ったような打球を飛ばせないと、膝を折って大げさにズッコケた。「ノッカーも新人なんで。明日から(2軍キャンプの)BOSS組にいるかもよ」。ただこれも、ただの冗談とは受け取れない。「本数は決まっているんだから、しっかりやってくれないとね。選手が疲れちゃうでしょ?」。練習の効率や意味を最優先するからこその言葉だ。
この練習が終わろうとする頃、新庄監督はマイクを握って、スタンドへ語り掛けた。「これぞプロというプレー、カッコいいシートノックが見られます。楽しんでいきましょう」。万波が本塁に悪送球すると「もう1回」とやり直しを命じた。
「ファンの拍手が大きくなるとね、選手に届くでしょ。選手が燃えてくるんだよ」
今季のチームスローガンは、新庄監督の鶴の一声で決まった「ファンは宝物」だ。それはファンサービスに務めましょうというだけではない。甲子園で育った新庄監督は、ファンの厳しい視線が選手を育てる肥やしになると知っている。全てが新庄監督の演出下にあったかのようなシートノックこそが、変わりつつある日本ハムの象徴だ。
(羽鳥慶太 / Keita Hatori)