若手が足元にも及ばない“大島洋平の壁” 36歳の安打製造機に全くガタがこないワケ
オフからキャンプにかけて作り上げる「最新版・大島洋平」
今年も変わらない。中日の2軍キャンプ地・オキハム読谷平和の森球場(沖縄)で、大島洋平外野手が淡々と調整を進めている。変わったことと言えば、今季から担うチームキャプテンを表す胸の「Cマーク」くらい。今年11月で37歳。衰えは感じないのか――。不躾だとは思いながらも問うと、事もなげに言う。「ないっすねぇ」。超高性能の安打製造機は、フル稼働に向けて南国でアイドリングしている。
中堅で不動のレギュラーを担い続け、もう10年。近年は“ポスト大島”の育成が叫ばれるが、そもそも本家が下降線に入る兆しがない。周囲の誰も心配していない。2019年からは2年連続で最多安打のタイトルを獲得。昨季もリーグ4位の160安打を重ね、16盗塁と合わせていずれもチームトップだった。今キャンプでは、根尾昂内野手をはじめ期待の有望株たちが外野のレギュラーを目指して熾烈な争いを繰り広げるが、足元にも及ばない別次元にひとりいる。
正直、衰えないはずはない。ただ、懸命に抗っている姿をおくびにも出さないのが、また不思議でもある。現状維持ではなく、進化につなげていくひとつの要因は“定期点検”。「(オフの)11月、12月くらいから体を作り変えるというか、マイナージェンジを徐々に始めていますね」と言う。今オフに取り組んだ箇所は“肩”。体のバランスを見ながら、本来あるべき位置に戻していった。
年が明けると、過酷で有名な自主トレで徹底的に追い込む。参加した選手に言わせると「きつすぎて朝起きたくない」レベル。球春到来に向け、ひとまず土台が出来上がる。そして、この2月。「(体の動きの中で)『ここが少し足りないな』と思った部分を見つけて、鍛えていく感じですね」。補足の調整で総仕上げとなるが「年々、やることは増えていっていますよ」。初めて30代後半らしい言葉を口にした。
自身はマイナージェンジと言うが、アップデートに近い意識。“バグ”が見つかれば修正し、常に最新版で大島洋平を提供している。キャンプ終盤から実戦に立ち、打席での感覚をすり合わせて開幕へ。誤差なく機械的に淡々と進めていく様が、かえって凄みを増幅させている。
偉業が見えてきた。通算2000安打まで252本。大卒から社会人をへた達成は、古田敦也、宮本慎也、和田一浩の3人しかない。「近くなってきたら意識するんじゃないですか?」と笑うが、その視界にははっきりとXデーが映っているようにも思える。「来年のオールスターくらいっすかねぇ」。軽く放ったひと言が、ぴたりと的中しそうで怖い。
(小西亮 / Ryo Konishi)