たった一人の打者だけに変えていた ダルビッシュ有、スパイク一足分の大きな勇気 【マイ・メジャー・ノート】第4回
記者席から見つめた右腕の足元、10年前のデビュー戦と重なった
ダルビッシュ有の大リーグ10年目は、怪我につきまとわれた。
2022年、パドレスの開幕投手へ向けて充実したキャンプをアリゾナで過ごしているダルビッシュ有。27日(日本時間28日)のオープン戦2度目の登板を4回2安打1失点4奪三振で終え首脳陣に猛アピールした。
ここまで順調に来ているダルビッシュだが、パドレス移籍元年となった昨シーズン、左股関節と腰を痛め3度の負傷者リスト(IL)入り。下半身を十分に使えず、ブルペンで微修正を繰り返したフォームは安定せず、夏場には7登板連続で黒星を付けた。それでも視線を落とさなかった。その一端を「足元」に見たのは宿敵ジャイアンツ相手の登板だった。
10敗目を喫した9月13日。自己ワーストの4本塁打を浴び、6安打8失点で4回降板。敗因は絞り切れていた。
「なんとか勝たないといけない。(同僚左腕の)スネルもきのう怪我をした。長いイニングをいかなきゃいけない、なんとかしなきゃいけないというところがあったので、どうしても力みが出てきた。力を出さないといけない場面で力んで。それで(体の)開きも早くなって。リリースが見やすいといえば見やすかったかもしれないです」
7連勝中で勢いに乗るジ軍打線の左打者に付け込まれた。4被弾中3発を食らった。が、その中で、活路を見いだそうとする意識がプレートに置く軸足の変化に見て取れた。
4回、先頭の7番、ヤストレムスキーを左打席に迎えた時だった。カラティニ捕手とサインの交換をするダルビッシュの右足がプレートの三塁寄りに移っていた。ほぼ真ん中に置いていた足場を変えたのである。その理由は何だったのか。
水を向けた。
「それよく見てますね。あの一人だけですよ、本当。昔と同じ三塁側から投げたらどうなんだろうって。見た目も変わるので、ちょっとズレるだけで。何かいい感覚が出てきたりするかなと思ったんですけど……。左には内角のツーシームが投げづらく感じるし、スライダーのバックドアは引っかけた感じで。そこでやめました」
諦めずに万策を尽くす。ノックアウト寸前のマウンドでもしたたかな姿が、過去と一本の糸でつながった――。