2軍で0勝16敗の日ハム右腕を変えた“エースの振る舞い”上沢直之との忘れられない3週間
5年目の田中瑛斗は、2軍でも勝利を上げられず昨オフ育成選手に
手元に2軍イースタン・リーグの記録集がある。個人投手部門で、史上最長の「11連敗」を喫した選手が今回の主人公だ。日本ハムの5年目、田中瑛斗投手はプロ2年目の2019年にシーズン0勝11敗という数字を残した。さらに2020年は7月に右肘を手術、昨季も0勝5敗に終わるとオフには育成選手となった。昨季まで2軍で残した成績は48試合で0勝16敗。1年目に10試合登板ながら防御率1.64と好投した有望株は、すっかり輝きを失ってしまっていた。
ただその田中は今季、長足の進歩を見せている。5月20日のヤクルト戦で5年目の初勝利を挙げると、2軍で先発ローテーションの一角を占めるようになった。150キロに迫る剛球を投げ込む姿は、自信を取り戻したかのようだ。きっかけはこのオフ、エースと過ごした3週間にあった。
150キロの直球にスライダー、カーブを操る姿は右の本格派そのものだ。2軍とはいえ、ついに初勝利を挙げた田中は自信に満ちあふれているように見える。変わったのは精神面。腹をくくっての投球が、ここまではいい方向に出ている。
「育成になって、もう後がないぞと思って……。これまでも同じ気持ちのつもりでしたけど、やっぱり違うんですかね。ストライクを取りやすくなった気がします。『打てるなら打ってみろ』という気持ち。強気で行っているつもりでも、これまでは不安があったりしたのかな……」
変身のきっかけをくれたのは、チームのエース・上沢直之投手だ。田中はオフの自主トレーニングに同行し、キャンプインまでの約3週間、文字通り“密着”した。ずっと願い出ていたが果たせなかったのは、上沢の側に理由があった。2019年、DeNA戦でソトの強烈な打球を左膝に当てて骨折。その後は新型コロナウイルスが広がった事もあり、ようやくの実現だった。
技術的なアドバイスももらった。「意識するようになったのは右の股関節です。しっかりタメを作って動くように」というワンポイントを、練習から頭に置いて動くようになった。ただ最も影響を受けたのは、そこではない。「投球スタイルとかフォームじゃないんです。野球に対する姿勢と、あとは人間性」。言ってみれば“エースの振る舞い”だった。