大谷翔平から“三振を奪う”ための投球術 ヤ軍元エースとの仮想対決で見えた「野球の奥深さ」【マイ・メジャー・ノート】第8回
数字で伝わる事実と、数字では伝わらない“呼吸”がある
打球の速度、角度、バレル率……。MLBが2015年から採用しているデータ解析システム「スタットキャスト」から、強打者たちのスイングを分析したデータを楽しむ若年層のファンが急激に増え、それらを網羅した情報伝達がメディアで欠かせなくなってきている。最新機器から弾き出される数値は、即時的かつ刺激的な「感動」を呼ぶのであろう。その流れとは逆行することになるが、打撃術や投球術の一端を枝葉や点描として情報に描き足し、読者をフィールドの最前線近くにいざなうような視座を僕は打ち据えたいと思う。
ヤンキース時代の1999年に達成した史上16人目の完全試合では、達成の瞬間、マウンドに両膝を着き喜びを表す名シーンをファンの記憶に刻んだデビッド・コーン氏。通算4度の世界一を経験するなど、黄金時代のエースとバーチャルで組んだバッテリーはかくも貴重な体験となった。
野球は人間がやるもの――。やまない雨で試合が中止となったあの夜、マンハッタンへの電車を待つ「161st Street-Yankee Stadium」駅のホームで、野球を愛した先人プレーヤーたちの声が聞こえてきた気がした。
○著者プロフィール
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続ける在米スポーツジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。その実績を生かし、2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。シアトル在住。【マイ・メジャー・ノート】はファクトを曇りなく自由闊達につづる。観察と考察の断片が織りなす、木崎英夫の大リーグコラム。
(木崎英夫 / Hideo Kizaki)