1159日ぶり勝利の阪神・才木が独白 “手術に感謝”と言えるまでの2年半の葛藤
“先輩”藤川球児からもアドバイスを…手術して得られたことは「1個や2個ではないです」
「自分はあまり人前で落ち込んだ姿を見せないようにしていたので、今、結構、周りから『萎えていた時あったの?』『沈んだ時期がなかったね』とか言われます。自分も慰めてほしいとか思っていなかったので、声をかけてくださることはとても嬉しいですが、アスリートとして、気落ちしている姿を見せることはすごく恥ずかしいなと思っていました」
2020年11月にトミー・ジョン手術を受け、長いリハビリ生活に入った。トレーナーからの「大丈夫。きっと良くなるよ」という言葉が支えだった。ボールを投げられないストレスとの戦いが続き、術後も患部の状態は一進一退。それでも後ろを向くことはなかった。
「同じ手術を受けた藤川球児(球団SA)さんからアドバイスもいただきました。実際にボールを投げられるようになってからは、思うような(自分がイメージする)動きが出せなかったので、新しいトレーニングを取り入れたりしました」
トミー・ジョン手術の前と後では指先の感覚は「別物」になった。新しい感覚がプラスに働く面とマイナス面もある。才木は制球、メカニックの部分でプラスに働いた部分が大きいという。
「トミー・ジョンって右腕の内側を“切って”います。小指や薬指と内側の筋肉はつながっているので、リハビリで集中してトレーニングをして強化をしていたら、そこの効きがすごくよくなりました。リリースの時に手首がぶれたりせず、きちんと真っ直ぐに立って、指先にかかって押し込めている感覚が生まれました。そこは手術前より力強くなったなと感じています」
それ以外にもリハビリ期間中に得られたことを聞くと「1個や2個ではないですね」と頼もしい答えが返ってきた。それまでやってこなかった足裏や足の指のトレーニング方法やその重要性を深く知ることもできた。今までにない感覚や医療機器にも出会えたことで“トレーニング好き”の才木はなんだか嬉しそうだった。
「怪我をしないと得られなかったことがたくさんありました。まだまだ、もっと(フォームなど)直すところはいっぱいありますが、今、これくらいの球を投げられるのであれば、もっと良くなる手応えはあります。何といいますか……すごく未来は明るいです」
インスタグラムのDMでファンの方からの励ましが多く届き、その1通1通に目を通した。まずは1軍のマウンドに戻ってきた姿を見せることが、できなかったメッセージの“返信”にもなる。手術の決断が正しかったとの証明は、1軍に上がっただけではなく、先発ローテーションをまわって活躍することだと胸に秘めている。自分が見せるべき姿は何なのか――。才木はリハビリの期間を耐え抜いて、新たな自分に出会うことができた。
(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)