大怪我で右膝は元に戻らず…元ハム外野手が少年野球に伝える「無理と無茶」の違い

元日本ハム・谷口雄也さん【写真提供:(c)H.N.F.】
元日本ハム・谷口雄也さん【写真提供:(c)H.N.F.】

日本ハムのアカデミーコーチ谷口雄也さんは2016年に右膝を手術

 無理と無茶。似ているようで大きく違うという。昨シーズンまで日本ハムでプレーした元外野手の谷口雄也さんは、現役時代に負った大怪我の経験をアカデミーコーチで生かそうと、第2の人生を歩き始めている。「無理はするけど無茶はしない」。怪我から学んだ考え方を少年野球の子どもたちや保護者に伝えている。

 5年以上経っても、記憶は鮮明に残っている。谷口さんは、2016年のシーズンオフに右膝前十字靭帯の再建手術を受けた。この年、日本ハムは中堅のレギュラーが故障で離脱し、谷口さんは定位置を奪うために右膝の痛みを我慢しながらプレーしていた。

「シーズンの早い時期から痛みや違和感がありましたが、ここでチャンスをつかみたいと必死でした。術後1か月間はベッドから立ち上がれない状態が続きました。退院してからも思い通りに体を動かせず、予定通りにリハビリは進みませんでした」

 膝の前十字靭帯は方向転換したり、動きを止めたりする時に重要な役割を担う。普段の生活はもちろん、プロ野球のレベルでプレーするには機能の回復が不可欠となる。まず、谷口さんは怪我をした右膝や周りの筋肉に力を入れるトレーニングや、膝を曲げ伸ばしする練習から始めた。自分の体とは思えないほど自由が利かない。階段の上り下りだけで1日のリハビリを終える日もあった。

 グラウンドに戻りたいはやる気持ちを抑えながら、地道にトレーニングを続ける日々。トレーナーやファンに励まされ、谷口さんは一歩ずつ復帰への階段を上った。そして、2018年のシーズン終了間際に1軍に帰ってきた。翌2019年5月には965日ぶりの安打を記録。だが、怪我をする前の体には戻らなかった。

手術前の姿を追い求めず、術後の体でベストな方法を模索

「手術した右膝が開きやすくなり、左打者にとって大切な右側の壁を作るのが難しくなりました。根気強くトレーニングをしましたが、以前と同じ動きはできませんでした。手術後の膝の可動域の中で最も力が入るポイントを探しました」

 谷口さんは手術前の体を追い求めなかった。術後の膝を受け入れて、ベストな方法を探す。踏み出す右足に力が入るよう、母指球(親指の付け根)から地面につくことを心がけたり、重心の位置や体重移動を試行錯誤したりした。1軍に復帰してから3年間で出場したのは計45試合。2021年限りで引退を決めた。故障は現役生活を短くしたかもしれない。だが、谷口さんは悲観していない。

「アカデミーに来ている子どもたちと話をすると、所属している少年野球チームで怪我のリスクがある指導を受けているケースがあります。時には頑張らないといけない場面や時期はありますが、無理と無茶は違います。無茶は怪我につながる可能性があります。自分自身が怪我をして学んだ『無理はするけど無茶はしない』という考え方を子どもたちはもちろん、指導者や保護者にも伝える機会をつくっていけたらと思っています」

 谷口さんは怪我をしてから、体について学び、考えながら練習や試合に臨むようになった。周囲のサポートのありがたさや人付き合いの大切さも実感したという。「経験を還元していきたいと思います」。プロ野球選手は引退してからの人生の方が、ずっと長い。

(間淳 / Jun Aida)

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