印象的だった「野球が楽しかった」　鷹・甲斐拓也に離脱期間で生じた思考の“変化”

「マイナスに考えても仕方ないので、この期間をなんとかプラスに」

　今季はここまで打率.184と低迷が続き、批判の声も浴びてきた。忸怩たる思いを抱えながら懸命にプレーしていたが、突然の陽性判定で離脱を余儀なくされた。「今までのことも、今年の途中までも振り返って、どうしたらいいのかな、と言うのは考えていました。もうマイナスに考えても仕方ないので、この期間をなんとかプラスに持っていけるようにしていこうと」。落ち込みたくなる気持ちを奮い立たせ、先を見据えて考えを巡らせた。

　その中で気付いたのは“考えすぎている自分”の存在だった。2017年に1軍定着してから今年で6シーズン目。各球団と何度も対戦し、良くも悪くも特徴もデータも把握し合っている。「何年も対戦してきて、いろんな表もあれば、裏もあるということがたくさんある。そこを考えすぎて、追いすぎてってのも良くないなと思いました」。そこに囚われすぎているのではないか、と感じた。

　ファームで若手と汗を流す中で、原点も思い出した。元々は育成選手として入団し“底辺”から這い上がってきた。久々にファームで若手たちと汗を流し「若い選手と練習して、自分も元々そういうところで汗をかいてきた人間ですから、考えるところがありました」。辿り着いたのは“シンプル”さ。打席でも「シンプル」に。そして「ガムシャラにやっていくのもシンプルの1つなのかな」と、若手のようにガムシャラにプレーすることも心掛けた。

　試合後、相棒の千賀と上がったお立ち台の言葉が印象的だった。「離れて分かったこともたくさんありましたし、久々に昨日は北九州、今日はPayPayドームで野球ができて、ファンの皆さんのたくさんの声援があり、ものすごく野球が楽しかったです」。野球が楽しかった――。離れたからこそ“野球ができる楽しさ”も再認識できたのかもしれない。浮かべた穏やかな笑顔が充実感を物語っていた。

（福谷佑介 / Yusuke Fukutani）