スローガンは「他喜昇り」 5年ぶり選抜出場なるか…鍵を握る慶応高の“人間性キャプテン”
新チームの慶應義塾のスローガン、「他喜昇り」に込めた意味
他喜昇り――。
1年生の久保田修斗が、選手ミーティングで提案した。
「鯉の滝登り」にかけたもので、激しい滝を駆け登るかのように、頂点を目指す。「他喜」という漢字を使っている理由は、大村が説明してくれた。
「チーム全体でメンタルトレーニングを学んでいて、『他人を喜ばせたい、恩返しをしたいと思う気持ちこそが、最大のパフォーマンスにつながる』と教わりました。久保田が、チームが熱くなれる言葉を考えてくれました」
大村が、恩返しをしたい人とは誰か。
「両親、森林さん、小学校や中学校で野球を教えてくださった方々、自分を支えてくれた全員に恩返しをしたいです」
そのためには、「甲子園、日本一という結果が必要になるのか」。大村に聞くと、同意しながらも、持論を加えた。
「日本一という目標を達成することが恩返しになるとは思うんですが、ひとつひとつのプレーに全力でひたむきに取り組むことも、恩返しにつながると思っています。練習から、目の前のことに全力を注ぐ。そこを一番に考えています」
大学生と喋っているかと錯覚するぐらい、落ち着いたトーンで、自分の言葉で語る。キャプテンに推薦されるのも納得だ。
「最終的には、慶応が日本一になることで、高校野球に新しい風を吹かせたい、高校野球の新しい当たり前を作っていきたいとも思っています」
大村が引っ張る慶応義塾は、これからどんなチームに成長していくのか。激流を駆け上がる力が付いたとき、甲子園が見えてくるはずだ。
(大利実 / Minoru Ohtoshi)
○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。