大谷翔平の“未来予想図”は「大外れですよ」 日本ハム元GMが語る獲得秘話

日本ハム・山田正雄スカウト顧問【写真:羽鳥慶太】(撮影時のみマスクを外しています)
日本ハム・山田正雄スカウト顧問【写真:羽鳥慶太】(撮影時のみマスクを外しています)

二刀流を成功させた大谷の人間性「チームの勝利のために頑張れる」

 そしてもう一つ、二刀流を成功させるために必要なことがあった。みんなに好かれる人間性だ。

「あんまり『俺が、俺が』という人間ではないよね。チームの勝利のために頑張れる。人に好かれるだろうな、周りがみんな認めるだろうな、というのはありましたよ」

 大谷が二刀流に成功すれば、選手1人の出番が失われることにつながる。これは入団交渉で、大谷より両親が心配していたという。提案した側の山田氏も「(両親は)『他の選手にいろいろ言われるんじゃないか』と言っていたね。誰もやってないことをやってほしいと言ったんだから、『うちの息子は大丈夫だろうか』と思うのも当然でしょう」と振り返る。思わず「プロ野球の世界、他人のことをそこまで考える余裕のある選手はいませんよ」と伝えたほどだ。実際には心配無用だった。大谷は先輩たちに物怖じせずに接した。ちょっかいを出す姿が「クソガキ」と呼ばれてかわいがられ、誰よりも努力する姿と驚異的なプレーで雑音を封じた。

 日本ハムは大谷を指名する前年のドラフトで東海大の菅野智之投手(現巨人)を1位指名したものの、入団には至らなかった。2年連続で1位指名枠を棒に振れば、チーム編成が揺らぎかねない。メジャー志望を公言する大谷の指名にはリスクもあった。

「2回目の交渉くらいから、正直こちらも焦っていました。もちろん、アメリカでやりたいと決意したと言っていたわけだから、来ないという覚悟もありました。でも、リスクだとは全然考えなかったね。やっぱりチームの軸になる選手を取りたいんですよ。1位では」

 この年のドラフト候補ではナンバーワンで、チームの軸になれるという見立ては正しかった。そして、予想以上のスケールを見せつけていった。

 今でも山田氏がはっきり覚えている場面がある。2013年1月、千葉・鎌ケ谷の球団施設は自主トレを開始した大谷フィーバーに沸いた。「面白いもので、軽くバットを振っただけでやっぱりスイングの速さは目立つんです。するとコーチも『これは絶対打者です。こんなの見たことがない』って言うの。でも、投げてみれば今度は『これは絶対投手です』と。今になってみれば、どちらも正しかったということ」。

 大谷を二刀流として花開かせたことで、球界にも変化があったという。「指導者の側が、やってみないとわからないと思うようになりました。両方できるならやらせてみよう、という空気になった」。今年のドラフト候補には、本来DH制のリーグでも投打二刀流でプレーする矢澤宏太投手(日体大)のような選手もいる。

 山田氏は78歳になった今も、スタンドから若い選手を見つめ続ける。大谷のような突き抜けた才能に、また出会ってみたいと願っている。

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