言えなかった心の病 続いた不眠と動悸…元中日外野手が球場に行けなくなった日
元外野手の滝野要氏、戦力外通告で「楽になりました」
体は疲れているのに、眠気はやってこない。翌日も試合がある。寝て体力を回復しなければと焦ると、余計に目が冴える。一睡もできず、気づけば朝。そんな日が、4年間の現役生活で何度もあった。今月、中日から戦力外通告を受けた元外野手の滝野要氏は、素直に思った。「もう考えなくていいんだと。楽になりました」。プロ選手としての岐路は、解放の瞬間でもあった。
岐阜・大垣日大高時代には、主軸として甲子園出場も経験。進学した大商大では1年時から出場機会を得た。2018年のドラフト会議で中日から6位指名を受け、少年時代から目指してきたプロ野球選手の夢を叶えた。側から見れば、順風満帆。ただ自分の胸にだけ、常に不安が宿っていた。
高校、大学と当たり前のようにあった上下関係。「先輩の目を気にして、こうやったら怒られないかなとか常に考えていました」。遠目に上級生が集まっているのが見えると「悪口を言われてるんじゃないか」と勘ぐった。
怒られても、ケロっと切り替えられる同級生が羨ましい。「僕自身、自分の中に閉じ込めちゃうタイプで……」。それでも、時が解決してくれる学生時代はまだよかった。2年生になれば“下っ端生活”は終わり、最上級生になれば周囲を気にする機会も少なくなる。“気にし過ぎな性格”と割り切った。
プロの世界に身を投じ、苦しみと真正面から向き合うようになる。1軍と2軍ではっきりと引かれた線。首脳陣は期待を込めて鼓舞してくれているのは分かっても、ふとした言葉が鋭利に突き刺さる。「そんなんやったら一生2軍だぞ」「だからダメなんだ」……。弱い自分に打ち勝とうとすればするほど、知らないうちに自分を追い込んでいた。
自ら病院に出向き、自律神経の病気だと診断を受けた。一部の球団スタッフには打ち明けたが、チームメートや首脳陣にはなかなか言えなかった。「『滝野って弱い』と思われるのが嫌だった」。もしかしたら、受け入れてくれたのかもしれない。でも、“メンタル弱い”で片付けられるかもしれない恐怖が勝った。