杉谷拳士が超前向き「前進会見」で涙を見せたワケ “2人の父”と歩んだ野球人生

会見で今季限りでの現役引退を表明した日本ハム・杉谷拳士【写真:荒川祐史】
会見で今季限りでの現役引退を表明した日本ハム・杉谷拳士【写真:荒川祐史】

テスト生出身という同じ境遇、栗山前監督も「父親のような存在」

 さらに、杉谷の涙が止まらなくなったのは、会見の最後に昨季まで10年間、苦楽を共にした栗山英樹・前監督が花束を持って現れた時だ。「やり残したことはないですか?」という問いに「ないです。これから前進しようと思っています」とキッパリ言い切った杉谷は、おえつをもらした。「泣くな拳士、泣くな」と繰り返す栗山前監督と抱き合った。

 2019年に、国内FA権を取得した時から「ファイターズのユニホームで終わりたい」と考えていた。そしてこのオフはより具体的に、栗山前監督にも進退を相談していたのだという。

「栗山監督はずっと僕を見てくれていた、父親のような存在でしたし、今回こういう決断になりますと報告した際も『拳士らしいね。拳士は拳士らしく、これからできることをサポートしますよ』という話をしていただいて……。電話越しだったんですけど、電話を切った後に涙が止まらなかった」

 栗山監督が就任1年目の2012年、キャンプではまず、選手を見ることに徹していた。中盤を迎えようというころ、初めての“直接指導”に及んだのが杉谷だった。打撃練習のボールを上げる指揮官は「俺たちみたいな選手はな……」という言葉を繰り返していた。

 テストを受けてプロ入りという境遇が同じだったのだ。栗山前監督も、国立の東京学芸大からプロ野球を志し、ドラフト外でヤクルト入りした。だから杉谷には目をかけ、人一倍厳しくもした。バント失敗で即2軍落ちさせたこともあった。ただ「俺は信じているからな」と声をかけることも忘れなかった。2軍施設の屋内練習場で練習を繰り返す杉谷には、どれだけ支えとなったことだろう。

「本当に栗山さんには迷惑かけてばっかりで、ずっと今まで支えてもらっていたなと改めて感じました」

 杉谷は会見の最中、何度も「引退って言ってませんでした?」と報道陣に問いかけ、決して後ろ向きな言葉を使うまいとしていた。日本ハムを「世界一愛される球団」にしたいと、フロント業にも関心を見せた思考回路には、プロだけでなく球界全体の発展に尽くそうとする栗山前監督の影響が間違いなくある。これからも“2人の父”を追って、前に進み続ける。

(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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