無名の存在が全国舞台で無双投球 “7回ノーノー”の左腕は広島・森下、楽天・早川級

7回無安打投球を見せた環太平洋大の先発・徳山一翔【写真:編集部】
7回無安打投球を見せた環太平洋大の先発・徳山一翔【写真:編集部】

環太平洋大の2年左腕・徳山一翔は国際武道大相手に7回9K2四球無失点の快投

 1試合で無名の存在からプロも注目する左腕へと駆け上がった。秋の日本一を決める「第53回明治神宮野球大会」が18日、神宮球場で行われ、大学の部1回戦では環太平洋大が3投手による継投で国際武道大を無安打無得点(2四球)に抑え、2-0で勝った。先発の左腕・徳山一翔投手(2年)が7回無安打2四球。8回は左腕の蛭子凌太郎投手(2年)、9回は右腕の辻祐希斗投手(4年)がそれぞれ3人で片付けた。

 ニューヒーローは先発の徳山だ。スピンの効いたストレートは、この日最速147キロを記録したスピードガン表示以上に速く見える。国際武道大の打者が振っても振っても、バットはボールの下を通過するばかり。9三振のうち8個を空振りで奪った。「今日は真っすぐが良かった。相手は振ってきましたが、(バットに)当たっていなかったので、まっすぐで押しました」とうなずいた。

 相手の国際武道大・岩井美樹監督は、大学日本代表監督を務めたこともある名将だが、「ストレートの球質がいい」と脱帽するしかない。「ジャパン(侍ジャパン大学代表)に推薦したい」とも語った。

 しかし、7回裏の攻撃でその徳山に打順が回ると、代打が送られ、ヒットを打たれないまま97球で交代。野村昭彦監督は「(8回も)続投するかと聞きに行った時にはもう、トレーナーにマッサージをしてもらっていました。私自身も投手出身なので、本当にいいのかと思ったけれど、『代わります』と言うので」と苦笑まじりに明かした。徳山本人は「欲を出して四球などでリズムを狂わせ、チームが負けたら良くない。次の投手を信じて勝ちにこだわりました」とあっけらかんと語った。

 というのも、徳山は徳島・鳴門渦潮高時代は一塁手兼中継ぎ投手で、3年時の背番号は「3」。大学入学と同時に投手に専念し、今年1月、家庭の事情による3年間のブランクを経て現職に復帰した野村監督の目に留まった。「最初のキャッチボールを見て、球筋に一目惚れしました」と指揮官。ウエートトレーニングの効果で、MAXも高校時代の138キロから大幅にアップした。当初は故障続きで、10月29日には今大会への出場権をかけた中国・四国三連盟代表決定戦(対近大工学部)の先発に抜擢されるも、4回途中に左ふくらはぎの痙攣で降板。完投は大学入学後1度もないが、今大会の大舞台でようやく本領を発揮した格好だ。

 野村監督は元広島監督の謙二郎氏を兄に持つ名伯楽で、自身も大学日本代表コーチを務めた経験から「徳山のストレートは失速しない。そういう真っすぐには、なかなかお目にかかれません。森下(暢仁投手=現広島)、早川(隆久投手=現楽天)に似た球筋です。あとは縦のカーブを磨けば、手がつけられなくなる」と解説する。

 ちなみに、今大会でノーヒットノーランを達成した投手は過去4人いるが、継投によるものについては資料がなく、今回は参考記録扱いとなる。それでも野村監督は「2番手で投げた蛭子も2年生。彼らが3、4年になった時、本気で(全国大会優勝を)狙えるのではないか」と夢を広げる。今のうちに“徳山一翔”の名前を覚えておいても、損はなさそうだ。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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