グラブはめられなくても「野球がしたい」 メジャー87勝左腕がくれた“知恵と勇気”
田渕川真朋くんは左手に障がい抱えるもカープジュニアに選出
0-9のビハインドで迎えた最終回、マウンドに上がった右腕は左利き用グラブを左手に“乗せて”セットポジションに入った。グラブは上下逆。まるで左手がすっぽり笠をかぶったようだ。ボールを投げこむと、グラブを素早く右手にはめ、器用に捕球する。カープジュニア・田渕川真朋くんは、生まれながらに左手に障がいがあるが、ハンディキャップを感じさせないプレーを見せた。
27日に開幕した小学生の軟式野球大会「NPB12球団ジュニアトーナメント KONAMI CUP 2022」。この日、横浜スタジアムの第2試合で、カープジュニアはマリーンズジュニアと対戦した。2回に一挙5得点の猛攻を許すなど、0-9で5回コールド負けを喫した。
今年から就任した天谷宗一郎監督の初陣は厳しい結果になったが、最終回堂々のマウンドさばきを見せたのが田渕川くんだった。8点を追う5回1死一、三塁で4番手として登場。120キロに迫る直球を武器に打者へ向かった。遊ゴロの間に三塁走者の得点を許したが、続く打者を捕邪飛に抑え、この回をしのいだ。
田渕川くんが野球に興味を持ち始めたのは、小学2年生のころ。地元球団の広島がリーグ3連覇を果たしたのがきっかけだった。ただ、生まれつき左手に障がいがあり、バットやグラブ、ボールを握れなかった。それでも「どうしても野球がしたかった」と、脇に挟んだり、肘の上にのせたりするなど工夫したが、どれもうまくいかなかった。その時、野球をやっていた父から1人のメジャーリーガーの写真を見せられた。
右利き用のグラブを右手に乗せて投げていたのは、エンゼルスやヤンキースで活躍した左腕のジム・アボット投手だった。先天性の右手欠損というハンディキャップがありながら、MLB通算87勝。ノーヒットノーランも達成している。「『これならいけるんじゃないか?』とお父さんに言われて……」。試してみたら、しっくりくる。落ちる心配もなく、思い切り投げられるようになった。
投球時、グラブを乗せた左手を強く引くことで、球速も出るようになった。「色々試して、しっくりきていなかったんですが、それ以来強く投げられるようになりました」。グラブにバンドを巻き、簡単には落ちないようにして使用している。