「僕にとっては贈りバント」 少年野球の指導者が涙…“泣き虫”教え子が見せた集大成

野球で取り返せる失敗は野球で返すしかない

 高校2年生の時には、レギュラーで夏の神奈川大会に出ていましたが、彼の失策をきっかけに負けてしまいました。小さい頃からそうだったんですが、苦手なタイプ、左側のゴロをエラーしてしまったんです。よく練習をしていたんですけどね……。

 3年生の最後の夏を終わらせてしまったという自責の念で1週間くらい、自宅から出られなかったと一輝の父から電話をもらって聞きました。その後、会う機会があったので「野球で取り返せるもの(失敗)は野球で取り返しなさい。それが一番いいから」と。それから「最後の夏は絶対、見に行くからなって。応援に行くから」と言いました。立ち直って、一生懸命練習して、頑張ってくれました。

 最後の夏。組み合わせを見ると……うちの娘がマネジャーをやっている神奈川の強豪校と一輝の学校がぶつかってしまいました。こんなこともあるのか、と。どっちを応援すればいいんだかという状況になってしまいました。一輝は「9番・二塁」で先発出場でした。複雑でした。

 試合は僅差で進み、終盤の1点差の場面を迎えました。無死一塁で一輝に打席が回ってきました。絶対にバントの場面です。僕はいろんなことを思い出していましたね。彼につきっきりで2時間も3時間もバントの練習をした時のこと……いろいろと思い返す中、僕が見つめた先の一輝は、プレッシャーのかかる初球、そして2球目もバントを失敗してしまいました。あぁ――。娘の応援なのか、一輝のバント成功を祈るのかもう僕も動揺していました。

 そして3球目……。一輝の代のメンバーにもよく言っていたのは「犠牲バントというのは存在しないよ、君たちがやるのは“貢献バント”。チームの犠牲になるのでははなくて、貢献。そういう気持ちでやろう」。そんな言葉をかけたことが頭をよぎっていました。

決めた送りバント、試合後に抱き合った瞬間止まらなかった涙

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY