「僕にとっては贈りバント」 少年野球の指導者が涙…“泣き虫”教え子が見せた集大成

最後の試合を終え、涙を流す一輝さん【写真:年中夢球さん提供】
最後の試合を終え、涙を流す一輝さん【写真:年中夢球さん提供】

決めた送りバント、試合後に抱き合った瞬間止まらなかった涙

 最後はきっちり、バントを成功させ、走者を進めることができました。一輝は試合に負けてしまいましたが、最後の貢献バントを見せてもらえて嬉しかったです。試合後、一輝の父親を探して、話をしました。「あいつ(一輝)どうだった?」と聞いたら、「泣き虫キャプテンだったけど、最後は笑って終えられましたよ」と言ってくれたんで、良かったなと思いました。

 その時、戦い終えた一輝が出てきて、僕と目が合ったんです。父親の言う通り、笑っていました。でも、私に近寄ってくるうちに、だんだんあいつ、ポロポロポロポロ泣き始めて……。僕ももう『ダメだ……』と思って、彼を抱きかかえた時、もう涙が止まりませんでした。

 一輝が僕に言ってくれました。「バントを教えてくれて、ありがとうございました。僕はバントがなかったら、多分、メンバーにも入っていなかったです」と。決めたバントの場面で、私がリトルリーグ時代のことを思い出していたと伝えると「僕もです。あの練習をやったから、絶対に決まると思っていました。2ストライクでも自信を持ってやりました」と言われて……分かちあうと、2人でワンワン泣いてしまいました。泣き虫キャプテンだったあいつが流した野球での最後の涙を一緒に流すことができたのは、すごく嬉しかったですね。

 リトルリーグの時に貢献バントの練習だけでなく、セーフティやスクイズ、プッシュとか練習する過程が変わるたびに、あいつはすごく喜んでやってくれていました。彼は大学を卒業して、社会人として頑張っています。あのニコって笑ったあとに、涙で表情を崩しながら、僕に駆け寄ってくる場面は一生忘れないですね。

 今、思うとあれは何の涙だったのか、よくわからないです。ただ、高校野球の最後の送りバントは一輝が指導者だった僕にプレゼントをくれたような感じです。父親でもないのに、父親のような気持ちで最後、野球を見させてくれて、指導者としても喜びを分かち合える瞬間をもらった。彼がくれたのは『贈りバント』。まさにギフト。野球の楽しさはホームランを打つことだけではないんだよって、教えてくれたのも、僕にとっては一輝だったかもしれません。

○プロフィール
年中夢球(ねんじゅうむきゅう)本名・本間一平。学童野球とリトルリーグで指導者を計20年間務め、プロ野球選手も育てた。多い時には80人のメンバーがチームに所属し、神奈川県大会で優勝した経験もある。DeNA左腕・石川達也投手は教え子の1人。現在は講演や書籍を通じて、指導者や保護者に経験や考えを伝えている。

【年中夢球さんが保護者に送る動画はこちら】
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(Full-Count編集部)

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