全て背負う“エース”に「頼むぞ」しか言えず… 価値観すら変えたWBC決勝での力投

決勝前、岩隈には「頼むな、頼むぞとしか声を掛けられなかった」

 当初は準決勝の先発を松坂大輔(レッドソックス)、決勝戦をダルビッシュ有(日本ハム)に託す予定だった。それが準決勝からダルビッシュが抑えに回ることになり、決勝が岩隈先発に変わった。「本人は想像していなかったかもしれませんね」と与田氏は言う。その大一番は試合前から独特のムードがあった。「ブルペンでは結構寒かったので、山田さん(久志投手コーチ)が岩隈にジャンパーを掛けてあげていた。体が冷えないようにね。それから3人で並んで国歌を聞いた。すごい緊張感がありましたね」

 大会期間中、与田氏は投手それぞれに、いろんな声をかけた。「多少、調子が悪くてもそれを受け入れた上でのコメントをね。本人も暗い顔をしているのに“絶好調だな”なんて言えませんから。ここだけ気を付ければ大丈夫じゃないかとか。変化球でカーブはよくないけどスライダーはいいという場合は序盤からちょっとスライダーを多めに使っていこうとか。球数制限とかもあったので、投げながら整えていくなんて余裕がない大会。よーいドンからその選手の持っているいいものを引き出せるように、と考えていましたね」。

 だが、決勝前の岩隈に対しては「自分自身も緊張していたので、頼むな、頼むぞという言葉しかかけられなかったんじゃないですかねぇ……」とはっきり覚えていないという。もちろん、いつも違うと感覚だったのは与田氏だけではなかっただろう。そんな中でも岩隈はきっちり結果を出したのだ。この大会のMVPには3勝をマークした松坂が輝いたが、間違いなく岩隈も同じように光る存在だった。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY