侍J、最強継投を可能にした“準備の男” 米国で登板ゼロも…コーチが感謝するワケ
準決勝、決勝では登板なしも…初回からブルペンで準備していた宇田川優希
ポーカーフェースは変わらなかった。だが、1か月前の宮崎キャンプの頃とは明らかに表情が変わり、自信に満ちあふれていた。野球日本代表「侍ジャパン」の宇田川優希投手(オリックス)は世界一の瞬間を左翼後方のブルペンから見つめた。全速力でマウンドへ向かい、喜びを爆発させた。米国で登板する機会はなかったが、侍ジャパンに欠かせない1つのピースだった。
第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で14年ぶりに王座を奪還した侍ジャパン。悲願まで残り2勝として臨んだ米国での決勝ラウンドでは、多くのヒーローが生まれた。メキシコとの準決勝では、吉田正尚外野手(レッドソックス)の起死回生の同点3ランに、この試合3三振だった村上宗隆内野手(ヤクルト)の逆転サヨナラ打。米国との決勝では、最後の最後で実現した大谷翔平投手(エンゼルス)vsマイク・トラウト外野手(エンゼルス)……。挙げるとキリがない。一方で宇田川は“黒子”に徹し、常にブルペンで待機。その時を待った。
準決勝で佐々木朗希投手(ロッテ)、山本由伸投手(オリックス)という若きエース2人をつぎ込んだ侍ジャパンは、決勝で“リリーフデー”のような継投策をとった。先発・今永昇太投手(DeNA)は2回で降板。3回以降は6人の投手で強力米国打線をカイル・シュワーバー外野手(フィリーズ)のソロ1本に抑え込んだ。
結果的に登板はなかったが、侍ジャパンがこの継投策を取ることができたのは、宇田川の存在が大きかった。この2試合、右腕は試合が始まると同時にブルペンに向かった。準決勝も決勝も2回から肩を作り始め、6回近くまで投げられる準備をしていた。終盤に差し掛かっても出番を待ち、最後までブルペンで待機した。
宮崎キャンプで厚澤和幸コーチが「長いイニングのバックアップに回れる能力を持っている。マウンドに上がらない中での作業が得意な人と得意ではない選手がいて、宇田川はずば抜けて上手」と話していた。準決勝、決勝は常に1点を争う試合展開。誰かがピンチを招いて降板しても、宇田川がいる。そんな安心感があった。だから、決勝で迷わず調子のいい投手陣をつぎ込むことができた。