枕元で爆音流し「気絶させるんです」 快眠できず3000日超…オリ宗佑磨の“日常”
“天職”へのコンバートは「プレッシャーのない心持ち」
満面の笑みで白球を追う宗に「おい!」と声が飛んだ。「あ、やばい。調子に乗りまくってたから、怒られるか……?」。振り向くと、中嶋聡監督がいた。「宗、今日、お前、サードな!」。2軍戦が始まる、直前だった。指揮官は返事を待たなかった。「2軍の試合なんだから、エラー何個しても良い。いいからやってみろ!」。首を縦に動かした宗だが「え、また内野を守るの? 内野用のグローブ、持ってねぇよ……」と動揺した。
「ち、近けぇよ……」
そのまま外野手用のグローブで三塁を守った。久々の内野守備に、足はガチガチだった。「でも、楽しかったんです。だって、その日はちゃんとできなくて良いと思えたから」。2度の守備機会を今でも鮮明に覚えている。
「ショートを守っていたときの反省が生きているんです。打球に入る角度だったり、捕球するときの右足の位置、あとはスローイングも。考えすぎてガチガチになって、集中できていなかった。サードは一瞬で打球が飛んでくるから、考える時間がない。今でも、僕は形に捉われない意識です。自然の摂理に任せて、打球の流れに逆らわない。反応に任せる感じ。何も考えてない。考え出したら一睡もできなかった夜と、ちょっと一緒に感じました」
奇抜な髪型に注目が集まっていた若き頃を越え、今季で27歳を迎える。「中嶋監督に(三塁に)誘ってもらって、人生が変わりました。全然ダメだった僕でも、なんとか戦力になれるポジションがあった」。2021年、2022年はパ・リーグの三塁手部門でベストナイン、ゴールデングラブ賞に輝き、連覇&日本一に大きく貢献した。
「今、すごく幸せです。だから、もう悩む必要なんてありません……って、カッコ良く言いたいですね(笑)。僕は、もっともっと野球が上手になりたいんです。まだまだ、考え事をしちゃうんです。今でも、全然眠れません。どんなメンタルしてるの? って自分でツッコミを入れたくなる。でも、それでいっか。それが、ありのままの僕だから。こんなに充実した生活を送れている毎日に感謝しかないです」
濡らした枕に、五線譜が浮かんでもおかしくない。
○著者プロフィール
真柴健(ましば・けん)1994年、大阪府生まれ。京都産業大学卒業後の2017年、日刊スポーツ新聞社に入社。3年間の阪神担当を経て、2020年からオリックス担当。オリックス勝利の瞬間、爆速で「おりほーツイート」するのが、ちまたで話題に。担当3年間で最下位、リーグ優勝、悲願の日本一を見届け、新聞記者を卒業。2023年2月からFull-Count編集部へ。
(真柴健 / Ken Mashiba)