日本S決定翌日に戦力外…忘れられぬ練習中の大号泣 駆け寄った吉田正尚からの気遣い

現在はレッドソックスで活躍する吉田正尚【写真:ロイター】
現在はレッドソックスで活躍する吉田正尚【写真:ロイター】

教わった、親身に寄り添う力

「超一流の気遣いに触れた瞬間でした。あんなサプライズ……ないです。本当の“寄り添う力”に出会いました。こんな人間になりたいなと。頂いたグローブを使う機会はなかったですけど、今でも宝物です。家に飾っています。僕の頑張る力になっています」

 西村氏がグローブを贈られて“泣いた”のは人生で2回目だった。小学5年で野球を始めた際、嬉しそうな表情をする母親から新品のグローブを手渡された。「え……」。漏れそうな声を胸に隠した。「僕、左利きなんです。ただ、母さんは野球に詳しくなくて、左手にはめる“右投げ”のグローブを買ってくれたんです」。10歳だった西村氏は、その場で“右投げ転向”を決めた。

「母子家庭だった僕は生活の苦しさを理解していました。朝早くに起きて、夜中に帰ってきて……。必死に働いて買ってくれたグローブに、文句なんて言えるはずがありませんでした」

 右投げに転向した西村氏は、捕手を任された。2017年ドラフト5位で指名され、オリックスへ。左利きのままでは、基本的に本塁を守ることがないため、母親の“失策”がプロ入りにつながった。「すごい出来事ですよね……。いつも母に『ありがとうね』と伝えています」。エラーを帳消しにする野球人生を送った。

 今春から挑戦している新たな転身には「自分の関わる人に苦しい思いをしてほしくないと思って、今の仕事を志しました。野球界で思うような活躍ができなかった僕にも、新しく頑張れるポジションがあった。野球と同じく、後悔しない1日を過ごしていきたいです」と、親身に寄り添う。

 表舞台から去った男は今、強く根を張り、幹を太くして生きている。

(真柴健 / Ken Mashiba)

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