「きっと後悔する」 “ナックル姫”がメジャー挑戦へ…31歳、進退も見据えた決断の裏側

エイジェック女子野球・吉田えり【写真:荒川祐史】
エイジェック女子野球・吉田えり【写真:荒川祐史】

故障続きで葛藤の日々…昨年訪れた転機との“出会い”

 男女の体格に違いが出始めた中学生の時、吉田は野球を続けられるか悩んだ。そんな時、父が紹介してくれた投手のある球に目が止まった。球速120キロ程度ながら、屈強なメジャーリーガーたちが捉えることができない“魔球”。その操り手がティム・ウェイクフィールドだった。無回転に近いボールは空気抵抗を受けて不規則に変化し、投げた本人も行方が分からない。しかしこのナックルボールを武器にパイレーツ、レッドソックスでメジャー通算200勝を挙げた。吉田は「この球なら戦えるかもしれない」とウェイクフィールドの握りを参考にして鍛錬を重ね、“ナックル姫”と呼ばれるまでになっていった。

「やっぱりこのナックルボールがなかったら、野球を続けられていなかったと思いますし、そもそも私が中学生の時、女の子が野球をする環境がなかったので。私にとっては今ではなくてはならないものだなって」

 野球人、一人の人間として、吉田えりという存在を作り上げたのがナックルボールだった。“原体験”の土地を志すのも自然の流れだろう。2010年にはアリゾナ・ウインターリーグに参加するなど、渡米は何も今回が初めてではない。しかし現実は厳しく解雇も経験。その後は故障と戦う日々が続いた。遠のく憧れの舞台。「25歳を過ぎてから苦しい、本当はこれしたいけど多分、無理だろうなと逃げていて。その逃げている自分っていうのは好きにはなれなくて。女子野球に来てからも葛藤がありました」。

「もう投げられないな」との思いもよぎっていた中、昨年に転機が訪れた。対話を通して自分の内に秘める“答え”を引き出すコーチングとの出会いだった。自己との対話を続けていき、吉田は今まで蓋をしてきた心の声を聞いた。

「今後も女子野球を続けたいなって思う部分もあるけど、自分の中で(気持ちが)入りきれてない、心残りの部分があったんです。ゆくゆくは指導者になって子どもたちに野球の楽しさを伝えたいって思った時、私自身がしっかりやりきって、やってよかったって思えるものにしたい。挑戦しないでいたら、きっと後悔するだろうなって」

「先のことは何も考えてない」31歳、進退も懸けたメジャー挑戦

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