覚悟のメジャー挑戦は「いい声を聞けないと思っていた」 旅立ったナックル姫の“感謝”

迷いのない決断、挑戦よりも「進化をしに行く」

 31歳。20代でも表舞台から去る選手が多いプロ野球の世界で、本音を言えば「不安がないわけではない」。それでも「不安のせいにして自分のやりたいことができなくなるのは、今回挑戦する意味がなくなってしまう」。やらない後悔よりやる後悔。「やらないでいた時のほうが自分としてはずっと心残りになる……」との想いは、紆余曲折を経ていま大事にしている生き方なのかもしれない。

 困難や新たなことに立ち向かう「挑戦」。ただ、吉田の言動には“困難なこと”というニュアンスは感じられない。むしろ“楽しいこと”に没頭するといった、ある種アーティスティックな側面すら漂っている。「吉田さんの今回の“挑戦”。この2文字より適したものがあるのではないか?」。そう問うと、しばし熟慮しながらこう言葉を紡いだ。

「挑戦というのは確かに合っていますが……そうですね、進化……『進化しに行く』というつもりでいたいな。技術だけではなくて気持ちの面が大きいですけど、メンタルのところで超えたいなってところがあるので。どんな結果であろうと、今回の渡米というのは“次”につながると思う。選手としても、ゆくゆく目指す指導者としても」

 成功か否か。人は結果のみを見て判断してしまう。それは決して間違ってはいない。しかし吉田は、難題に向き合えたのかどうかを大事にし、そこで何を得られるのかにフォーカスしていた。大きな決断を下し、一歩を踏み出した先にあるのは、過去にいなかった自分、新たに成長できた自分――。悲壮感がないのも当然だった。この挑戦をへて、吉田はまたひとつ“進化”する。

 渡米の背中を押すように、夜空は雲一つなく澄み渡っていた。一切の迷いがない、吉田の心の内のように。

(新井裕貴 / Yuki Arai)

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