「思い出作り」と言われた重責過ぎるマウンド 日本中を欺いた…大一番の“奇襲先発”|球界群像 川端順#13

広島で活躍した川端順氏(左)と山本浩二監督(当時)【写真:本人提供】広島で活躍した川端順氏(左)と山本浩二監督(当時)【写真:本人提供】

西武との1991年日本シリーズ…王手をかけて迎えた第6戦に川端順氏が先発

 山本浩二監督率いる広島は1991年シーズン、セ・リーグを制覇した。炎のストッパー・津田恒実投手が病気で4月に戦線離脱。終盤は「津田のためにも」とナインが奮い立ち、首位を走っていた星野中日を逆転しての優勝だった。日本シリーズは西武との対戦。広島が3勝2敗と王手をかけた第6戦(10月26日、西武球場)には川端順投手が先発した。その年はそこまで、すべてリリーフ登板。まさに奇襲作戦だった舞台裏を当事者の川端氏が明かした。

 現在、故郷の徳島・松茂町議を務める川端氏はよく覚えていた。10月24日に広島市民球場で行われた第5戦に3-0で勝ち、3勝2敗で王手をかけた後、大下剛史ヘッドコーチに呼ばれた。「『お前、先発やらんか。いや、やらんかじゃなしにやれ! 相手にデータはない。3イニング2点以内で抑えろ、それでいいから、あとはリリーフ全員で行くから』って言われて『わかりました』と答えた」。

 現在は監督会議によって予告先発が採用される年もあるが、当時は一般的ではなかった。誰が投げるのか。先発投手を巡っても様々な駆け引きが行われていた時代だ。翌10月25日は移動日。川端氏は「あの時は確か(ヤクルト本拠地の)神宮球場横の室内で練習したんです」と言って、こう続けた。

「先発候補のピッチャーは隠れて、ピッチングしたように汗を流したようにして、報道陣の前に出た。僕はいつも通り、室内からタクシーに乗って帰ったふりをした。ブルペンキャッチャーとは一緒だったんですけどね。わからないように、近くに移動して、そのまま待機。報道陣がいなくなってから2人だけ神宮室内に戻り、ピッチングをしたんです」

 まさに先発隠し大作戦だった。「神宮室内の整備の人たちやヤクルトの関係者たちはなんで戻ってきたんだろうって思っただろうね。でも不信に思うことはないでしょ。だって、相手は西武で、ヤクルトは関係ないからね」。

先発・川端でどよめいた西武球場…3回1失点で降板

 試合当日、メンバー発表で広島の先発が判明した時は球場もどよめいた。「翌日の新聞に(西武監督の)森(祇晶)さんの『えって思ったけど、大下のことだから何かしてくる予感はした』みたいなコメントが載っていたのも覚えている」と川端氏は振り返る。

 とはいえ、王手をかけた試合での先発だ。緊張感もハンパではなかった。試合をぶち壊したら、それこそ、何をいわれるかわからないと身震いした。そんな中、結果は3回1失点。大下ヘッドに言われた3回2失点以内のノルマをクリアした。「3回を投げ終わった時に、大下さんに『どや』と聞かれたので『大丈夫です。5イニングいけます』と言ったんですけどね、『いや、いい。もう代われ』って」。

 試合は1-6で敗戦。第7戦も敗れて、広島は日本一になれなかったが、川端氏は「日本シリーズで僕が先発したという記録は残っているわけですからね。使ってもらって感謝ですよ」という。後に大下氏にはこう言われたそうだ。「あれはお前、いい思い出作りや」と……。

「それにしてもあの頃の西武は強かったですよねぇ。秋山、清原、デストラーデ……。みんな体もでかかったしね」としみじみと振り返った。そんな強力レオ打線に挑んだ大舞台の先発マウンド。白星こそつかめなかったものの、大下氏の言う通り、まさにいい思い出となった。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

球界群像〜川端順編〜

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