浦学に大敗「何かを変えなきゃ」 “裏方”の献身サポート…創部93年公立校の飛躍のワケ

34年ぶりの甲子園を目指す市立川越ナイン【写真:河野正】
34年ぶりの甲子園を目指す市立川越ナイン【写真:河野正】

今春の埼玉県大会でベスト4入りした公立伝統校・市立川越

 夏の高校野球埼玉大会が8日に開幕した。1代表だと26年、2枠でも23年続けて優勝校には私学が名を連ねる。公立勢が私学の独占状態にくさびを打ち込み、巻き返す可能性はあるのか。有力校の一角、市立川越高校のチーム力を探った。

 伝統校には面倒見のいいOBが大勢いるものだ。1930年(昭和5年)創部の市立川越高校野球部の卒業生は無尽蔵におり、外部コーチとして後輩の指導に当たる者も多い。

 投手コーチを務める井口拓皓もそのひとりで、2008年春の大会を制したエースだ。卒業後は駒大と日本通運で活躍。2019年のアジア大会に出場した侍ジャパン社会人代表に入るなど、抜群の制球力でドラフト候補にも挙がった。将来を嘱望されながらも日本通運を辞め、この5月から母校で後進の指導に当たる。

 室井宏冶監督は「あれだけの投手が付きっきりでアドバイスしてくれるのだから、ありがたい限り」と感謝する。井口を指導した前監督で現コーチの新井清司は、「日通を辞めたのはもったいない気もするけど、うちにとっては最高の指南役が来てくれたものですよ」と喜んだ。

打てるぞと思わせて「なぜ打てない?」となる投球術

 左腕エース・西見一生の背番号は、新チームが結成された昨秋は11番だった。もちろんエースナンバーは欲しかったし、周りからも力を付けるよう促された。そこで球速を上げるため投球フォームを修正したが、全くうまくいなかった。

「井口さんが来てからはフォームをじっくり見てもらい、自分の長所を伸ばすことが大事なんだと教えられてからは、速球と変化球の組み合わせの幅が広がりました」

 最大の持ち味は? と水を向けると「“こいつなら打てるぞ”と思わせておいて、対戦後に“なんで打てないんだ”って悔しがらせることです。僕のチェンジアップは特殊ですからね」と笑顔を振りまく西見の最速は120キロ。本当の武器は、バックを信じて打たせて取る投球術だ。

 指導陣は総勢11人。教員は4人だが、OBをはじめとする外部コーチは、理学療法士など7人いる。1989年の夏の甲子園に初出場した当時からのコーチ、62歳の諸口栄一もいまだにグラウンドに駆け付ける。

 OBで教員のコーチ、丹羽俊亮は2、3年生の夏に捕手で8強入り。3兄弟の長男で県優秀選手にも選ばれた。3人そろって市立川越の主将を務めている。

スターは不在だが「チーム力が強みで意見交換も活発」

 昨秋は初戦の2回戦で春日部東に9-14で敗れたが、今春は3回戦で花咲徳栄に7-4、準々決勝では上尾を5-3で破った。浦和学院との準決勝こそ0-11の5回コールドで完敗したが、2年連続のベスト4は立派。しかし室井は「同じ公立でも大宮東、上尾、狭山清陵のようないい投手といい野手もいないし、そんなに力があるわけではない。スタッフの尽力が大きかった」と労をいとわぬ指導陣に謝辞を述べる。

 主砲で右翼の畠山敦志は「スターはいません。うちは単打でつないでつないで、つなぎ抜く野球が信条」と言い、先頭打者で中堅手の南創太も「力がないことを自覚しているので、相手に向かっていく気持ちを大切にしています」と、2人とも室井の言葉を裏付けた。

 浦和学院に大敗した後だ。3年生の須田大樹が学生コーチに名乗りを上げた。「選手ではなくなるので迷ったが、甲子園を目指すには裏方が必要だと思った。勢いだけでは勝てない。浦学に負けて何かを変えなきゃいけないと感じました」と話し、練習メニューの管理や選手と指導陣の橋渡し役などに徹する。

 城北埼玉との初戦(12日)が近づいてきた。主将で一塁手の鈴木善は「個々の力では私立に勝てないが、うちはチーム力が強み。選手同士のミーティングを増やし、練習に対する意見交換も活発です」と仕上がりは順調のようだ。

 川越市は昨年、市政施行100周年を迎えた。野球部が優勝し、小江戸・川越の祝賀に花を添えられるか。(文中敬称略)

(河野正 / Tadashi Kawano)

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