ヌートバーがツイッターをしない理由 忘れない1年前…親友との“非情な別れ”

カージナルスのラーズ・ヌートバー【写真:Getty Images】
カージナルスのラーズ・ヌートバー【写真:Getty Images】

移籍期限を前に変わるクラブハウスの雰囲気

 野球日本代表「侍ジャパン」に日系選手として初めて招集され、3大会ぶりの世界一に貢献したカージナルスのラーズ・ヌートバー外野手。8月1日(日本時間2日)に迫るトレード期限で、主力のノーラン・アレナド内野手の移籍が囁かれている。ヌートバーの思いは……。Full-Countでは、MLB公式サイトのカージナルス番ジョン・デントン記者の取材をもとに、等身大のヌートバーを粗挽きする月2回の連載「ペッパー通信」をお届けしている。第5回のテーマは、トレードの功罪について。【取材:ジョン・デントン、構成:木崎英夫】

 トレード期限が迫るクラブハウスの空気はこれまでと違っている。

 カージナルスは7月29日(同30日)のカブス戦に敗れ、勝率.434でナ・リーグ中地区最下位に転落。首位ブルワーズとのゲーム差は11.5に開いた。残り56試合となり、プレーオフ進出には暗雲が漂う。期限前に看板選手であるアレナドの駆け込みトレードは起こるのか。

 ヌートバーの目にこの状況はどう映っているのだろうか。

「正直にいうと、クラブハウスでは仲間選手からの囁き声が漏れている。メディアから時々刻々と出てくるトレード情報に反応する姿はある。でも、僕らは実行役ではない。編成権を握る人がチームの今後を見据えてカードを切るのだから、これは野球ビジネスの一部分。プレーに集中しないといけない」

 口を真一文字に結んだヌートバーには苦い思い出がある。親友、ハリソン・ベイダーの放出である。

戦うための心の準備は「情報の遮断」

「ハリソンはとても存在感のある選手だった。その彼がシーズン途中で急にいなくなるんだからねぇ……。カージナルスはメジャーで屈指の伝統を誇る球団で、マイナー組織と系統立った選手の育成は他のどの球団にも負けないと思っている。それだけに、過去の例からもわかってはいるものの、生え抜きの選手がトレードの交換要員になるのは受け入れ難いものがあった」

 1年前の夏だった。マイナー時代から苦楽をともにした親友ベイダーがトレードの俎上に上がり、ヤンキースに移籍。夢舞台を目指しそれを実現させた友との別れでヌートバーは虚無感にとらわれたという。「あの時の気持ちは救われた」。移籍先でレギュラー外野手として勝利に貢献しているベイダーはヌートバーの励みになっている。

 親友との非情な別れを経験したあの日、ヌートバーはフィールドで戦うための心の準備にも最善を尽くすと決めた。その心構えを固めているのが「情報の遮断」である。

「僕はTwitterのアカウントを作らない。理由は単純。うわさ話、醜聞、そしてこの時期なら錯綜したトレードの話が泡のように湧いて出る。その中に真実がいくつあるだろうか。誰もわからない。惑わされちゃいけない」

 数日前、エンゼルス残留が決定した大谷翔平投手が、その直後の登板で「スッキリ臨めた」と話しているが、ヌートバーの工夫を知ると、大谷にも平常心を保つための腐心があったことは容易に察しがつく。

カージナルスを離れることは「想像しただけでゾッとする」

 泡沫情報の遮断が奏功し、ヌートバーはゲームに集中している。それは、しっかりと数字にも反映されている。

 14日(同15日)からの後半戦15試合で、1試合2打席連続を含む5本塁打9打点を記録。この間の打率を.333として波に乗っている。堅実な守備力も兼ね備える25歳が期限までのトレード要員にならないという確証はどこにもない。昨夏のベイダーの実例もあり、もしものこととして問いかけてみた。

「先にも言ったように、ビジネスだからね。でも、僕はこの球団しか知らない。マイナーから階段を上ってきて本当にたくさんの人たちによくしてもらった。今も監督とコーチだけじゃなく、クラブハウスの担当者たち、食事を給仕してくれる人、そしてメディアともいい関係を築いている。ここを離れることは想像しただけでゾッとする」

 昨季地区優勝を果たしたチームは、シーズンの出だしから投打が噛み合わず、4月終わりの戦績は9勝15敗で50年ぶりのワーストスタート。その後も戦いぶりは不甲斐ない。ここまで106試合を戦い勝率が5割に達したのはわずかに2度だけ。

 今夏のトレード市場でカージナルスは売り手に出るのだろうか――。

【写真】ヌートバーと親友のベイダー 仲良しぶりが伝わる2年前の2ショット

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