屈辱の“ワースト記録”を経て…西武・西川の現在地 侍戦士との交流で感じた意識の差

西武・西川愛也【写真:荒川祐史】
西武・西川愛也【写真:荒川祐史】

西武・西川はNPB野手ワーストの連続打席無安打を62で止めた

 西武の6年目、西川愛也外野手は今季、NPB野手ワーストの連続打席無安打記録を62で止めて話題になった。埼玉・花咲徳栄高から2017年ドラフト2位で入団。高校3年時には夏の甲子園で埼玉県勢初となる全国制覇を果たした。輝かしい経歴を引っさげ入団したが、1軍では安打が出ず、苦しい日々を送った。

 入団3年目の2020年8月16日に1軍初昇格を果たし、その日にプロ初安打となる2点二塁打を放った。「試合の緊張感が2軍とは違いました。自分の精一杯のプレーはできました」。だが、次の1本までが長かった。今年4月30日の楽天戦(ベルーナドーム)で安打を放つまで、それまでの59打席を更新し、62打席連続無安打のNPB野手ワースト記録を作ってしまった。

「10打席いったぐらいから、だいぶ焦りはありました」。2021年は27打席無安打。「次のシーズン、上に上がったときは絶対に打とう」と決心したが、2022年も30打席無安打と、安打が出ない打席が積み重なっていった。

「『やればやるだけ上手くなる。まだ足りないんだ』と思って、練習はしていました。でも打てなくて……。凄い落ち込みます。次の日になったらだいぶ和らぐんですけど、試合の日の夜は結構きついです」

 コーチやチームメートは「あんまり考えるな。運がないだけでいつかは出る」と言ってくれたが「打てないのには原因がある」と考え込んでしまった。そんな時、声をかけてくれたのが、山川穂高内野手だった。

「試合が終わった後に室内に打ちに来ていて、『一緒に打とうよ』と誘ってくれました。『自主トレ誰とやってるの?』という話になって、考え方とかすごいなと思っていたので、『山川さんとやりたいです』と言ったら『一緒にやろうよ』と言ってくれました」

 山川との自主トレでは、実績を残している打者と残していない打者の映像を見て、何が違うのか研究した。打っている打者は、真っ直ぐに対する打率が高く、早いカウントからしっかり打ちにいっており、ポイントも前で打っていた。「それができれば、おのずと打てるようになるのかなと思いました」。そして迎えた2023年シーズン、4月30日の楽天戦、7回に中前打を放ち、連続打席無安打を62で止めた。実に987日ぶりの安打だった。

6年目の今季は打率.167、5月10日に抹消…2軍で奮闘中

「ヒットを打った後から、打席の中ですごく体が軽くなりました。ヒットが出る前は、1打席終わってベンチ戻ってくると、膝に乳酸みたいなものがすごくて、1打席1打席足がパンパンでめっちゃくちゃ重かったんですけど、ヒットが出てからはそれがなくなりました。不思議だなと思いました」

 無安打の重圧から解放された。しかし、1軍では6試合に出場して24打数4安打、打率.167で5月10日に出場選手登録を抹消。2軍で奮闘する日々が続いている。

「まだまだ実力不足です。2軍でも全然打てていない。1軍でレギュラーを掴むには打つしかないです。休みの日でも練習に来るようにして、バットを持たない日は作らないようしています」

 今年2月には、「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」に臨む野球日本代表「侍ジャパン」のサポートメンバーに選ばれた。帯同期間は2日間で、代表選手とは野球の話があまりできなかったと言うが、そんな中でも貴重な経験をした。

「山本由伸さん(オリックス)が『チョコ食べちゃったよ』と、チョコを食べたことにすごい罪悪感を感じていて『意識が高いな』と思いました。それがきっかけで、食事のことを少し聞くことができました。『夜食とか、何食べているんですか?』と質問したら、『スムージーを飲んでいる』と教えてくれました。寝る前は、固形物より消化の良いゼリーなどを食べるようにしています。そこで話を聞いていなかったら、いまごろ夜食をガツガツ食べていたかもしれません」

 不名誉な記録を残してしまったが、まだ24歳。これからさまざまなことを吸収しながら成長を遂げ、いつか笑い話にできる日が来ることを期待している。

(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)

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